虫
夏が来た、と実感することはいくつもある。
もちろんこの暑さもそうだがもう一つ、虫が最盛を誇る。
蛍はもういなくなってしまったが、全体として種類も数も増えた。
それは良いのだが増えなくても良い虫も目立ってくる。
蚊なんかはそれで、昨夜は日が落ちてようやく涼しくなってきた、と心地よくなる暇もなく大量の蚊が出てきて、虫除けスプレーでは追いつかないのでテントの中で汗だくになりながら夕食を食べた。
また、朝起きるとテント内に大量のアリが侵入しており、朝と昼用の米に集っている。
面倒な虫は、蚊、アリ、コバエ、クモの4種類。
蚊は言わずもがな、アリは食糧に集る、コバエは歩いている時に顔の周りに集る、クモは人があまり通らない道には必ず数メートルおきに糸のトラップや巣を張っている。
今日通った遍路道などは特に酷かった。
クモからしたらすべての巣を破壊しながら進む僕の方がよっぽどひどいのだろうが、油断して顔面に蜘蛛の巣を喰らった時の不快感は他に類を見ない。
上手く糸を避けて壊して歩いていても、必ずある程度は汗ばんだ腕にまとわりつくのでこれも不快である。
みんなみんな生きているんだ 友達なんだ〜♪
という気持ちが起こるのは、実害のない時の話である。
害がなければ、虫は嫌いではない。
クモなんかは好きな方だ。
足摺岬へ
今日は足摺岬に行って戻って来る。
どうせ戻ってくるなら重い荷物を背負うより必要なものだけ持った方がフットワークが軽くなる。
サブザックに必要なものを詰め、メインのザックは公園の影に置いて行く。
まあ誰も取らない。
ザックが軽いと足取りも軽い。
海沿いを歩く。
急斜面を降りて磯に降りられる所があれば、気軽に降りて、道も近い方より面白そうな方を選ぶ。
水が綺麗なので海はいつも綺麗だ。
松尾
松尾という集落に入った。
民家の間を歩いていくと、どこからも魚の匂いがしてくる。
特にカツオの匂いだ。
松尾という地名は、マツウオ(カツオ)がたくさん獲れることからついたと言われている。
急斜面に作られた集落のため、中を歩いていると急な階段や坂道を登ったり降りたりすることになる。
なかなか疲れるがザックが軽いので大丈夫。
アコウが自生していると書いてあったので、また急な階段を下りて海岸まで行く。
見つけたアコウの木は黒潮の暖気を浴びて生命力に溢れていた。
石をぎゅっと抱きしめて強風にも煽られない。
亜熱帯性の植物であるアコウが生えるのは、暖流の黒潮の影響で冬でも暖かいからだ。
そしてこの黒潮が暖かい海の魚を連れてきて、ここを豊かな漁場としているのである。
アコウの根元に座って芋けんぴをかじる。
目の前の港から船が出ていく。
ここは漁の集落である。
足摺岬
足摺岬は思いの外遠かった。
というのもわざわざ回り道して寄り道したからである。
足摺岬が近づくと、すっかり観光の町となる。
辺りにはホテルと民泊が立ち並んでいる。
足摺岬の周辺は、遊歩道になっていて、そこから様々なスポットに行くことができる。
スポットとは、何かしら名前のついた場所や自然物で、解説板がある。
この辺は室戸岬と同じだ。
白山洞門。
見上げる高さの海蝕を受けた穴で、地獄の門があればこのぐらいの大きさかと思った。
南無…まではなんとなく見える。
こんな感じで七不思議とやらが七つ以上ある。
漁に出た船はこの灯台の明かりを目印に帰ってくるのだろう。
先っぽは割とあっけない。
むしろ別の場所から灯台を望んだ絵が人気らしい。
展望台から灯台を望む。
天狗鼻から灯台を望む。
天狗鼻から灯台を望む景色は、21世紀に残したい日本の風景の四国1位に選ばれたらしい。
なかなか綺麗だが、放っておいても変わらなそうなこの景色より、壊されつつある四国の川の方が良い気がしてしまった。
ここには四阿があったので座って昼食にする。
このあと金剛福寺と、普通に観光した。
さて、帰るか。
唐人駄場遺跡
まっすぐ帰るつもりだったのだが、世界最大級のストーンサークルもあるという縄文時代の遺跡があるらしいので、少し歩くがそちらも寄ることにした。
結構歩いたが到着。
疲れたのでトイレの建物の影で水を飲んで芋けんぴを食べきる。
原材料を見ると、さつまいも(国内産)、砂糖、植物油の三つだけ。
美味いと思ったら。
近くには宮沢賢治含む何人かの詩人の作品が石碑になっていた。
ここには1日4合の玄米を食べると書いてある。
これは僕が1日に消費している米の量と同じで、一般的に見てかなり多いと思われる。
ただ、玄米と味噌、野菜だけなので贅沢とはとても言えない。
玄米は完全栄養食とも言われる。
雨ニモマケズにあるこれだけの食事をしていれば、実際栄養的には生きていけそうな気がする。
米には意外なほどタンパク質も含まれている。
まあ、もっと筋肉をつけたいと思うなら肉や魚や豆がいるだろう。
ストーンサークルは、期待外れだった。
というか、ぱっと見でサークルに見えないのだ。
石は見上げるほど大きく、その迫力はあったが、サークルと書いてある場所を見てもあまり円形に並んでいるようには見えない。
天体観測に利用する美しいストーンサークルを想像していたので正直がっかりした。
山の中に巨石が集まっている。
亀石。亀の頭に見えないこともない。
これだけの巨石が一所に集まっているのは人為的なものを感じる。
そしてここに集めたのならその方法は?
目的は?
この配置に意味はあるのだろうか?
そんな謎は浮かんだ。
平らなこの石の上では巫女が神楽を踊ったらしく、神楽石とも呼ばれているらしい。
その神楽は見てみたかった。
戻る
本当は元の場所に戻ってから、ザックを大きなものに戻してさらに歩いて道の駅まで行くつもりだったが、時間的にも体力的にも厳しい。
帰りに歩いた遍路道は現在使われていないようで、蜘蛛の巣の嵐であり、道がかなり分かりにくいところもあった。
ようやく外に出て、少し歩いて視界が開けて海が見えた。
泳いではしゃぐ子どもの笑い声が聞こえてきて、解放感に笑みがこぼれた。
公園に戻ってくると、ザックはきちんと日陰の中にあった。
アリも集っていない。
良かった。
今日もアリと蚊の多いこの公園で夕食を作って泊まらねばならないが…
まあいいやそんなこと。
これで高知で行きたい所は全部回った。
歩いた距離:30km