道の駅の甘味
午前中は柏島から道の駅大月まで歩いた。
なかなか疲労が溜まっている。
道の駅大月には、今日も素晴らしく多種類の鮮魚、野菜が安く売られていた。
マグロの心臓。
塩もみと水洗いで血を抜き、そぎ切りにして塩、ネギ、ごま油でレバ刺し風にして食べるらしい。
めっちゃ美味そう。
マグロの白子。
その他、マグロのちあいが、かなり安く売られていたが、すぐに買われてしまった。
丸ごと売っている魚もあれば、刺身用に切り出したものもある。
アラだけで売っているのは安い。
今日もまだ進むので買わなかった。
道の駅には大体アイスやソフトクリームが売っている。
美味そうだが買ってられない。
昼食も食べ、いつでも出発できるが、身体が疲れていてやる気が出ない。
そんな所に、おばちゃんが声をかけてきた。
「ぼくは何してんの? 四国遍路かい」
この年になって『ぼく』と呼ばれるとは思っていなかった。
「日本一周です」
「日本一周? えっらいなぁ」
歩きかい? 野宿で? と聞いてきて、答えるたびにえっらいなぁ、と言う。
「まだここにおんの?」
「もう少ししたら行きます」
そうしよう、と今決めた。いつまでもダラダラしていられない。
するとおばちゃんは店の方に目を向けた。
「アイスこうちゃる」
マジでか!
「え、ありがとうございます!」
思わず声が大きくなる。
「どれでも好きなの選び。一番高いのでもええよ」
見てみると、ものによって値段が違う。
オールトッピングと書いてある、かき氷にソフトクリームと色々載っているのが一番美味しそうで一番高い。
こういう時にケチな遠慮をしても誰も幸せにならない。
遠慮なく一番高いのを選ぶと、おばちゃんは破顔した。
「まあ、ゆっくり食べ」
椅子に戻って食べる。
ああ、美味い。
甘味は人を笑顔にする。
おばちゃんは「まあ、身体に気ぃつけてな」と言って去っていった。
ありがてぇなぁ。
ドリンク2本
おばちゃんの買ってくれたアイスで元気が出たので出発する。
近くのスーパーで卵とごま塩、味噌、安かったのでバナナを買った。
朝食と昼食は、前日の夕食時に炊いた米の残りなので、ご飯のお供がいる。
ふりかけだが、すぐに無くなるので回転が速い。
ごま塩が一番安くて一番もつ。
これから北に向かって歩く。
次は宿毛だ。
今日の目的地は道の駅宿毛。
半分より少し進んだ辺りで休憩。
バナナを食べる。
完熟の腐りかけでめちゃめちゃ甘い。
なんか免疫力アップとか書いてあった。
さらに歩く。
田んぼにさしかかると、「おーい」と呼ぶ声がする。
草刈りのおっちゃんが僕を呼んでいた。
「こんにちは」
「おお。四国巡りかいな」
「日本一周です」
「えらいなあ。これ」
お茶の入ったペットボトルを渡される。
「ありがとうございます」
そこでおっちゃんとしばらく立ち話した。
「季節によって、駄目な時はやめて、また続きからスタートってわけか」
「いや、雨で駄目な時はその場にテント張って停滞して、それからまたスタート。一気に日本一周ですね」
「そーいうことか! ははっ、えらいなあ」
「今日はどこまで行きよん?」
「道の駅すくもまで」
「あそこか。野宿?」
「そうですね。ただテント張れるかが微妙で」
「確か四阿があるわ。四阿。分かるやろ」
「はい」
「2階建てみたいのな。キャンプ場もあるけど、有料やけん」
「それは避けたいですね。四阿の中にテント張れそうですか?」
「ん~、あれやろ、テントちゅーてもこんまいやつやろ、ムーンライトみたいな」
「ですね」
「いけるんちゃうか思うけど」
おっちゃんはさすがに四国に住んでるだけあって、僕が歩いてきた所のことをよく知っている。
話せば打てば響くように答えが返ってくるので話が弾む。
「足摺岬も行ったんか。あの辺も大変やろ。ほとんど山道やけん」
「特に松尾の辺りは、アップダウン激しかったですね。アコウを見に行ったりしたら」
「松尾か。あそこはトンネル下っていった先に太平洋が開けるええところがあってな」
「そうなんですか。見てないな…」
「そう。最近トンネルで作ってな。もえスポットや」
もえスポットって何だ?
萌えスポット? 燃えスポット?
また僕の知らない新しい言葉が流行しているのか、と思っているとおっちゃんは思い出したように訂正した。
「いや違う。ばえ、映えスポットや。インスタ映えとかの、あれ。よう来よるみたいや」
映えスポットか。
それなら僕にも分かる。
それにしても、間違いだと分かってみると『もえスポット』はなかなか笑える。
『萌え』も『映え』もよく分かっていないグランドジェネレーションがやりそうな教科書通りの間違いである。
話が楽しいのでもらったお茶を飲み干すまで居てしまった。
お茶がなくなったあたりで話は終わり、おっちゃんは
「まだあるけん」
と、スポーツドリンクと凍らした麦茶をくれた。
四国の人は2本ドリンクをくれがちである。
「ここをずーっと草刈りするけん」
水分がたくさんいる、ということなのだろう。
だからおっちゃんの軽トラのそばにはたくさんの飲み物が冷やされていた。
「じゃあ身体に気ぃつけて。(道の駅すくもまで)もうちょっとやけん」
「はい。ありがとうございます」
ここ最近、毎日誰かに何かをもらっている。
真夏に歩いているから、心配してくれる人が多いのだ。
道の駅すくも
おっちゃんにもらったスポーツドリンクを飲みながら道の駅を目指した。
スポーツドリンクを飲み干す頃に到着。
道の駅すくもは、キャンプ場をやっていた。
整備されたサイトが有料で提供され、レンタルも充実している。
小洒落ているが、売店は小さく、直売所はない。
道の駅大月の正反対のような道の駅だ。
正直しょぼい。
ただ、立派な四阿があった。
おっちゃんの言っていた通り2階建て。
古くから旅人の宿として活躍してきたらしく、重要文化財に指定されているらしい。
老朽化が心配されるが、階段を上って2階に行ってもしっかりしている。
ここでテントを張ろう。
しばらくこの下で休んでいると、道の駅の人が来て、ここは宿泊禁止だと言ってきた。
向こうに有料キャンプ場があるから、と。
道の駅には注意書きもあり、車中泊は有料のオートキャンプサイトで行い、フリーパーキングで車中泊はご遠慮くださいとあった。
つまり、泊まっていく人間から金をとるために、有料場所以外での宿泊を許さないのだ。
この道の駅ができる前からここの四阿は旅人の宿であった。
何の権利で禁止しているのか。
広い駐車場は駐車スペースが有り余っており、車中泊しても何の問題も起こらない。
車からタープを引き出してやるようなオートキャンプを禁止するならともかく、駐車場での車中泊まで禁止するとはやりすぎである。
この道の駅は、金稼ぎばかり考えて、全然旅人に優しくない。
道の駅とは旅人を歓迎する場所ではないのか?
ひどいものである。
公園
道の駅を出て、宿毛の町へ歩いていく。
そこで海風公園という広い公園があって、綺麗なトイレもある良いところなので、ここにテントを張ることにした。
近くのショッピングセンターは大きく、様々なものが売っていて便利そうだ。
こま切れ肉を買った。
今日はこれでゴーヤチャンプルーにするのだ。
最近、レシピを見ずに料理を美味しく作れるようになってきた。
どの調味料をどのくらい使ってどう調理すればどんな味になるのか、なんとなく分かるのだ。
これは大学4年間の自炊生活の基盤があった上で、最近レシピを見ない料理を毎日していたからだろう。
とても良いことだ。
ゴーヤチャンプルーも一般的な作り方は記憶に曖昧だけれど、たぶん美味しくできると思う。
ゴーヤチャンプルー美味かった。
ゴーヤの苦みがまた美味い。
歩いた距離:28km