図書館
愛媛県での今後の予定は、西日本最高峰石鎚山に登り、その後はしまなみ海道を渡って中国地方に抜ける。
その石鎚山だが、友人が来るので、以前から予定を合わせていた。
友人は僕の予定に合わせてくれたが、京都から来てくれるのでさすがに3日前になってから、じゃあ3日後で、とはいかない。
まだ愛媛に入る前から予定を決めていた。
こっちから指定しておいて遅れるわけにはいかないが、あまり余裕を持ちすぎて停滞するのも困る。
そこで決めたのが18,19日だった。
18に前泊で、19日に登る。
松山から石鎚山登山口まで3日歩けばいける。
直前に1日休憩するとしてもまだ1日余る。
松山なら大きな図書館があるだろうから、もう1日ここで過ごすことにした。
昨日のひき肉が腐るので、朝からガソリンスタンドで燃料を入れて、調理した。
パン粉を使わずにコロッケの種の状態に塩とドライガーリックをかけた。
めちゃくちゃ美味い。
米は水を足して炊きなおす。
まあ食えるレベルにはなった。
朝食後、愛媛県立図書館を目指す。
何と言っても四国一の都会の図書館である。
さぞ立派なのだろうと思って行ってみた。
…小さい。
え? なにこれ?
図書館は小さく、何やら暗い空気が流れている。
棚には驚くほど古い本ばかり。
昭和と大正に出版されたものばかりで、平成以降の本が極端に少ない、ということが、本棚に並ぶ本の色褪せ具合から分かる。
嘘だろ。しかも蔵書も少ない。
そんな馬鹿な。
こんなにワクワクしない図書館は生まれて初めてだ。
一般図書は3階とあったが、他の階に良い本があるのではないかと思ったが、ここだけのようだ。
愛媛県立、図書館…え?
さすがにここはない。
別の図書館を探すと、松山市立中央図書館というのがあった。
こっちか。
しかしコメントを見ると、こちらも蔵書が少し古め、など微妙な意見も少なくない。
もちろん愛媛県立図書館の方のコメントはもっとひどいが。
歩いて松山市立中央図書館に行った。
こちらはまあそこそこ広く、蔵書もあり、満足できた。
良かった。
愛媛一の図書館があれとは信じたくない。
しかしこちらも、高知の中央図書館程素晴らしくはない。
徳島ももっと良かった気がする。
コンビニ人間
図書館では3冊程読んだが、中でも面白かったのはやはりコンビニ人間だ。
結構前に話題になった作品で、まだ読んでいなかった。
今なら図書館で予約無しで読める。
これだから、少し前の話題作を図書館で読むのはお得感がある。
しばらく前の作品だからネタバレもしてしまう。
ネタバレが嫌な人は読まないように。
実際に読む前、僕はこの本を、食料も日用品も生活に必要なものをすべてコンビニに頼り、コンビニに行くとき以外は外出しない生活をしている人のエッセイだと思っていた。
実際はフィクションであり、主人公はコンビニ店員である。
幼少期から共感能力に著しく欠け、サイコパスじみた行動を取る主人公は、貴志祐介『悪の教典』の蓮実聖司を連想させる。
ただし、共感能力以外のほぼすべての能力に長け、残虐性を備えた蓮実聖司と違い、本作の主人公は能力は平均レベルで残虐性は特にない。
ただ、問題解決に倫理的視点を一切考慮せずにひたすら合理的に対処するところなどはやはり似ている気がした。
本作主人公は、その共感能力の低さと感情の乏しさから、小学生の時異端と見られて様々な問題を起こし、以来極力自分の考えで行動することをやめる。
18歳でコンビニでアルバイトを始めたのが彼女の人生の転機であり、彼女はその時をコンビニ店員として生まれる、と表現している。
以来18年、現在36歳の彼女は未だ同じコンビニでアルバイトを続けている。
自らをコンビニの歯車と考え、行動の全てをコンビニを中心に考えている。
共感能力に欠け、感情に乏しい彼女には、『普通』に振る舞うことが難しく、喋り方などはコンビニの他の人間のトレースであり、服などのファッションも普通に振る舞うためにトレースする。
まったく同じでは不審に思われるため、話し方は複数人のものを混ぜて、服などは、バックヤードで他の店員の服のブランドなどを盗み見て、同じブランド品を購入するなどする。
よって彼女の喋り方やファッションは、コンビニの店員が入れ替わることで変容することとなる。
また、彼女は同年代の女性の普通を学ぶため、学校の同級生とつながりを持つが、周りは既婚者が多い。
その同級生のつながりで複数の人とつながりを持つが、36歳未婚コンビニアルバイト18年という経歴は不審を呼び、主人公は普通に振る舞い生きることが困難になっていく。
本作は主人公の一人称視点で語られる。
明らかに異端な感覚を持つ主人公は、はっきり言って気持ち悪い。
しかし同時に普通でない人間に対して世間がいかに酷い扱いをしているかが伝わってくる。
次第に主人公に感情移入してくると、自分とは明らかに異なる価値観、感想を覚える主人公に新鮮さを感じ、面白い。
そして、生まれつき異端な彼女が、ただ社会の中で普通に生きようとしているだけなのに、異端者を遠巻きにし、嘲笑し、排除しようとする世間の悪意のない悪意、冷酷さのようなものを実感せざるを得ない。
これまで、少なくとも表面上は味方だと思っていたコンビニの同僚たちが、人間性が終わっているためコンビニを辞めさせられたクズ男と主人公が同棲していると聞いた時、主人公への心配など一切なく、ただ面白いビッグニュースだと言わんばかりに騒ぐシーンは、人間の醜さを如実に表していた。
これまでに読んだことのないタイプの小説で、非常に面白かった。
特に最後の終わり方は素晴らしい。
僕はこういう人がいても良いと思う。
歩いた距離:5km