伯方島
今日は朝から全身だるく、休みたかった。
しかし今いる場所には水場がないため、長居するには条件が悪い。
また、日が出るとすぐにテント内はサウナと化すのですぐに撤収しないといけない。
重い体を動かしてテントをたたむ。
浜には影が無いのでテントをたたんだらもう歩き始めるしかない。
伯方島の道の駅までは約5km程だ。
そのぐらいなら歩けるか。
下を向きながら無心で歩くと思ったより楽に着いた。
伯方島の道の駅は、浜のそばにある。
砂浜は海水浴ができるようになっていて、なんと無料シャワーがある。
これで最近の汗と汚れを流せる。
素晴らしい道の駅だったが、キャンプ禁止と書かれていたのは残念だった。
ここで寝られないということは、まだあるかなければならないのだ。
近くにキャンプ場はあったが、どうせ有料だろう。
それならその金で何か買って食べた方が良い。
伯方の塩ソフトとどら焼き
午前中は長椅子でずっと寝ていた。
午後になって昼食を食べる。
道の駅には『せんざんき』なる唐揚げにしか見えないものが売っていた。
この辺りの料理だろうか。
唐揚げと何か違うのか。いずれにしろ美味そうだったが、ここは耐えた。
ソフトクリームが、伯方の塩ソフト、レモンソフト、チョコソフト、塩&チョコソフトの四種類あり、どれも400円だった。
そして、愛媛を歩く間何度も見たどら一のどら焼きも売っていた。
どら焼きは『思い出カスタード』なる普通の方が200円、『日向夏カスタード』が220円だった。
寝ている間もそばでソフトクリームを食べる人達は多かった。
『チョコはちょっとビターだったね』などの会話も聞こえた。
ビターなのか。美味そうだな…。
悩んだ結果、伯方の塩&チョコソフトを買うことに決め、券売機に並んだが、いざ買う段になって、財布に300円しかないことが分かった。
ならば千円札でと札入れを開くと、万札しかない。
券売機に万札は入らない。しかし万札の場合は店員に言ってもらえれば両替すると書いてある。
…いや、ちょっと待て。これは今ソフトクリームに400円を使うなという啓示なのではないか。
そんな気がして買うのをやめた。
そしてどら一を買いに行く。
これは冷やして美味いと書いてあるのだが、冷蔵庫には日向夏の方しかなく、普通の方は冷蔵庫に入っていない。
補充を忘れているのだ。
しかしどうも普通の思い出カスタードの方が美味そうに見える。
冷えていないどら一をレジに持っていって200円で買った。
どら一は美味かった。
まあ甘味を食べて僕が不味かったと言うことはほぼない。
だが、カスタードクリームの粘り気が若干鬱陶しい。
やはり冷やした方が良かった気がする。
あと、ちょっと甘すぎる。
甘味は甘すぎない方が好みだ。
四国でこれまでいくつかの甘味を食べてきたが、一番美味しかったのは、四万十源流の道の駅で買ったほうじ茶ソフトだ。
甘すぎないのが良かった。
海
浜辺で泳いだ。
ゴーグルがあるので泳ぎやすい。
水の綺麗さはそこそこ。
まあそんなに綺麗じゃない。
やはり柏島は稀有な透明度だった。
それでも泳ぐのは楽しい。
あんまり海にいると、気づかないうちに疲れてしまうので、早めに上がってシャワーを浴びた。
数日分の汚れを洗い落とす。
シャワーから上がると気分は晴れやか、とてもスッキリした。
これでまた当分銭湯に入らないでいい。
木の長椅子と、その上に屋根だけある所に座り、オカリナを吹いた。
数曲吹いて、井上陽水の『少年時代』を吹き終わり、目を開けると目の前に三十代後半の男性が立っていた。
どこか不機嫌そうである。
「上手いのかな…? 旅?」
「はい。そうです」
「隣なんだけど、ちょっと静かにしてくれない?」
長椅子と屋根は2つ分のあって、彼は僕の隣の屋根の下にシートを広げて家族といるようだった。
午後3時。文句を言われるような時間でもないが、小さい子供でも寝ているのかと横を見るが、誰もいない。
「はぁ」
まあ、そう言われて反発する程ではないのでオカリナをしまう。
それにしても、オカリナを吹いていてそれをやめろと言われたのは初めてだった。
夜は迷惑になるから吹かないようにしているが、今は日中で、しかもここは浜辺である。
気持ち良くオカリナを吹いていて、うるさいからやめろと言われて気分を害さない人はいないだろう。
なんて人間が小さい奴なんだ。
あの男に災いあれ!
と思ったが、考えてみれば、ああいう人間はこんなところに来ても楽しく過ごせるわけがないので、すでに報いを受けている。
そう思うと、可哀想にすらなってきて、イライラは消えていった。
寝床探し
歩き旅だと、寝床探しが大変だ、大変そう、という言葉をよく聞く。
今日は休みの日にしたかったが、この道の駅ははっきりとキャンプ禁止と書いてある。
その上すぐ横にキャンプ場もある。
なので歩いて寝床を探さなければならない。
僕としては、寝床を探すのがそれほど大変だとは思っていない。
今日寝るところさえも定まらず不安で…という感覚は、思えばカヌーで川旅をしていた時はよくあった。
それは川旅だからというより、単に不慣れだったからなのだと今は思う。
寝床になる場所は、テントが張れるスペースがあり、人の邪魔にならない場所だ。
水場があれば言う事無しだが、事前に水を汲んでおけば水場は無くても夕食、飲用の水は足りる。
この場合身体を拭いたり、翌朝顔を洗うことはできなくなるが、一日くらいなら問題ない。
今日も2km程歩いて、水場は無いが人は来ないであろうスペースを見つけた。
ここにしよう。
さっきドラッグストアで鶏むね肉が安く売っていたので、今日は唐揚げにする。
頭には食べられなかった『せんざんき』が浮かんでいる。
伯方だし、きっと味付けは塩だろう。
今日は塩唐揚げだ。
夕食の準備を始める。
まず米を水に浸す。
それから鶏肉を切って味をつけておいておく。
胸肉を使うときは、味がしみやすいようにブスブスと穴を開けておく。
また、塩唐揚げの時は鶏がらスープの元を入れて出汁を強くする。
しょうが、にんにく。
唐揚げは砂糖を入れると結構美味くなる。
揉み込んでおいておく。
粉は、片栗粉と米粉を1:1で。
味噌汁は、ピーマンと卵にしよう。
楽しみだ。
夕食を作っていると、軽トラがやって来た。
まあ何も言われないだろうとそのまま作っていて、ぱっと顔を上げると目の前に爺さんがにこにこしながら立っていた。
「あ、こんにちは」
「こんにちは、今日は、ここに泊まるんですか?」
「ええ、そうしようかなと思っているんですが」
誰の邪魔にもならない場所だし、たぶんやめろとは言われないだろうと思いながら、もし言われたらどうしようと思っていた。
すると、爺さんは缶コーヒーを取り出した。
「これ、常温ですけども」
「え、ありがとうございます」
「今、向こうでイノシシの罠に餌を仕掛けたから、夜中ぶうぶう言うかもしれません」
「そうですか。まあ、大丈夫だと思います」
「はい。まあ大丈夫だと思います。じゃあ、気をつけて」
どうも猟師の方だったよう。
それにしてもまさか缶コーヒーがもらえるとは。
とても感じの良い人だった。
旅人を見て、何かあげよう、となる人は、きっと心に余裕があって、素敵な人生を送っているんだろうな。
歩いた距離:11km