スズメバチ
昨夜、テントの中に入って天井に張り付いたスズメバチをそのまま受け入れることにして眠った。
日本一人間を殺している生物に対してなかなかイカれた行為だと思うかもしれないが、僕はスズメバチを結構信頼している。
アブというやつは、人の皮膚を食いちぎって血を舐めると聞いたことがある。
これはつまるところ食事であり、奴らとは分かり合えない。
しかしスズメバチは、自衛のために攻撃してくるのであって、人に対し理不尽な攻撃をしない。
対応さえ間違えなければ、攻撃してこない。
さらに言えば、スズメバチはある程度人を覚え、人に慣れるらしい。
人の家に巣を作った場合、そこに住む人はスズメバチにそこにいるものとして認識されているので、少し巣に近づいた程度では刺されないそうだ。
僕は昔からなぜかスズメバチに好かれる傾向にあった。
スズメバチの巣に近づいた時、スズメバチは歯をカチカチと鳴らしてそれ以上近づくなと警告を発する。
この辺りも理性的で好きなポイントだが、僕はこの警告を受けたことがない。
代わりに、しょっちゅうスズメバチにつきまとわれるというか、身体に止まってくる。
大人数でいても、スズメバチがやってくるのは必ず僕のところだった。
これは自衛行為ではなく、明らかに他の意図がある。
何かスズメバチが好きな匂いでも発しているのだろうか。
そして、一度も刺されたことがない。
昨夜、僕がカレーを作って食べる間、天井でスズメバチはじっと動かないままだった。
夕食を終え寝ようと仰向けになると、上にはスズメバチがいる。
怖さはまったくない。
スズメバチが僕をいきなり刺すことなんてありえないと思えた。
むしろ、テントの中に一人じゃないという不思議な感覚を覚えた。
スズメバチは人からすれば小さいけれど、存在感がある。
否応なくそこにいる感じがするのだ。
別に一人になって寂しいことはなかったけれど、亀を飼って一人と一匹で暮らしていた頃を思い出した。
朝、目が覚めると雨の音は聞こえない。
蝉の声と、風の音が聞こえていた。
天井のスズメバチは、少しそわそわしたように動いていた。
外に出たいのか、と思い、入口を開けると、スズメバチはすぐに風の入ってくる方へ歩き始め、入口から飛び去った。
こんなことは、他の虫ではまずない。
有用なシェルターを見つけたら、いつまでもそこに居続けるものだ。
少なくともこれまで僕のテントに入ってきたのはそういう奴らだった。
スズメバチは、ここが僕のテリトリーであることを分かっていたのだ。
その上で、僕がスズメバチを受け入れたことまで理解しているかは分からない。
けれど自分の居場所ではないから、出ていかなければならないと感じていたのだろう。
それは、常の僕のようだ。
あっけなく飛び去っていくスズメバチに、もう少しいてくれても良いんだぜ、と思いながら、じゃあな、と声をかけた。
ゴールデンスランバー
今日は伊坂幸太郎のゴールデンスランバーを読んでいた。
しかし読み始めた時間が少し遅かったようで、物語のクライマックス、めちゃくちゃ良い所で図書館の閉館時間になってしまった。
最後まで読まないと物語の面白さは語れないけれど、それでも間違いなくこれまで読んできた伊坂幸太郎の作品で一番面白い。
最高にドキドキしてワクワクして笑って泣ける。
まだラストまで読んでいないのに泣いてしまった。
これは、最高だ。
伊坂幸太郎の作品は登場人物がとても魅力的だ。
良い奴も悪い奴も、変な奴も普通の人も、みんな魅力的に思えてくる。
ゴールデンスランバーの最初の方を読んで、心底人間というものに嫌気が差してきたと思ったら、読み進めていくうちに人間というものが愛おしくさえ思えてきた。
明日、ラストを読もう。
台風について
台風は今朝のラジオでは今日の夜から明日の朝にかけて一番ひどいということだったが、現在午後七時過ぎで外は雨も風も静かなものだ。
どうなるか分からないけれど、一応明日の午後からは晴れるみたいなので、そうなったら歩こうかと思う。
歩いた距離:0km