比婆山へ
次は比婆山を目指す。
その後、神之瀬湖というダム湖を訪れて南に降りる予定だ。
しかし正直あまり期待していない。
比婆山は別にそう高い山でもない。
広島県の最高峰は恐羅漢山で、これは島根県の最高峰でもあるらしい。
つまり2県で1つなのだ。
恐羅漢山は島根県を歩く時に登るつもりなので、広島県では最高峰を登る必要がないことになる。
だからといって山に登らないのも寂しいので比婆山を登るのだが、特に高いわけでもないし、期待薄だ。
その後の神之瀬湖は、ダム湖なのであまり綺麗ではないと予想される。
正直、もう南に下りてしまってもいい気さえしているが、比婆山、神之瀬湖はあくまでチェックポイントであり、そこにいく過程こそが重要なのだ、という考えに基づき、歩く。
実際、中国山地は四国山地との違いが感じられて、楽しいこともある。
たまに良い景色が現れて、写真を撮った。
稲はもう金色に変わり、収穫されるのを今か今かと待ちわびている。
左に川が、右に電車の線路が湾曲して走る。
絵に描きたくなるような風景だ。
谷部とはいえ、左右を山に囲まれた圧迫感はない。
なだらかな地形でのんびりした田舎風景が楽しめた。
今日はちょっと真面目に歩きすぎたようで、2時前に温泉に着いてしまった。
小さな温泉で、中で長居はできそうもないから、今駐車場で休みながらこれを書いている。
温泉に入ったあと歩きたくないので、この辺でテント泊するつもりだったけれど、どうするかなあ。
温泉
とりあえず温泉に入ることにした。
中に入って驚いたのは、シャワーが無いことだった。
シャワーはなく、赤いハンドルと青いハンドルの蛇口が1つあるのみ。
さすがにそんなはずは……ともう一度探すが、やっぱりない。というか部屋が狭いのであれば見逃すはずない。
一応椅子と洗面器はある。
浴槽は小さく、2人ぐらいしか入れないだろう。
ちっさ!
まさかシャワーが無いとは思わなかったが、とりあえず頭を洗いたい。
蛇口は低いところにあるので、床に這いつくばって蛇口の下に頭を突っ込んで洗う。
え……公園?
赤いハンドルを回すが、出てくるのはぬるいお湯で、温かいという程ではない。
なんとか頭を洗い終え、体を洗う。
だいぶ汚いはずなので、流水で流しながらこすりたい。
しかしシャワーはないので、壁と床に体をぶつけながら蛇口の下に体を持っていき、洗う。
何してんだ僕……。
体を洗って浴槽を見ると、汚い。
浴槽の壁は下の方は緑色に覆われている。苔か?
古い小学校のプールみたいだ。
温泉に含まれる物質の作用なのだろうけど。
水面には前に入った人の垢が浮いている。
湯が循環していないのだ。
家庭の風呂と同様に、入れたら入れたまま。
家庭の風呂より汚いし。
毛が浮いてる…。
正直、こんなにひどい温泉に入ったのは初めてだ。
シャワーあるだろ普通。
垢が浮いているのも、せめて少し部屋が暗ければあまり気にならなかったのに、大きな窓から直射日光が入っているのでこれがよく見える。
前にしばらく野外に放置され、だいぶ汚くなった五右衛門風呂を掃除して入らせてもらった。
あれより汚いことはないけれど、あれは無料だったし、そういうものだと了解しているから満足だった。
でも、金を払って温泉に入る場合は、シャワーがあって綺麗さっぱりできるつもりで行く。
落胆せずにはいられなかった。
それでも風呂に入れば気持ち良い。
ふぅ〜。
まあ、多少汚いし、シャワーなかったけど、体洗って入ってしまえば一緒か。
ああ、極楽……。
風呂を出た。
階段を上がって出入口の手前の部屋に椅子とテーブルがあり、そこにおばちゃんが座ってテレビを見ている。
「あがりました」
「うん、そう。…今日は道後の方から来たの?」
「いえ、帝釈峡からです」
涼みたかったので椅子に座る。
入浴料の500円を払い、ぼーっとテレビを見ながら少し話した。
特に感じの悪い人ではない。
のんびりしているというか…。
こんなところにわざわざ温泉に入りに来る人は、大体秘湯マニアなんかで、本気で体を清めにくる人は少ないのかもしれない。
シャワーがなくても皆気にしないのか。
泉質〜良ければいい♪ そんなの嘘、だと、思いませんか〜♪
ま、さっぱりしたからいいんだけどさ。
温泉を出て、少し歩いて、道路の脇の広い空間にテントを立てた。
アスファルトの上だが、もう冷えている。
床暖房ではなくなっている。
むしろこれから寒くなってくると、アスファルトは熱を奪う冷たい地面と化すのだろう。
今が一番アスファルトの上で寝やすい時期かもしれない。
煮浸し
夕食は茄子と甘辛とうがらしの煮浸し、かぼちゃの味噌汁、米。
この夏はほとんど茄子、かぼちゃ、ピーマンor 甘辛とうがらしor万願寺とうがらし、ゴーヤ、オクラで夕食を作ってきた。
特に茄子、かぼちゃ、ピーマン、ゴーヤはどれだけ食べたか分からない。
調味料も限られているので調理の仕方も偏ってくる。
しかしやっぱり煮浸しは美味い。
この夏、南蛮漬けが実は非常に美味いことを知ったけれど、やはり煮浸しは安定。
かぼちゃの味噌汁も美味い。
まず油でかぼちゃを焼き付け、焼き色をつけてから水を入れるのがポイント。
そろそろ秋の野菜が産直市場に並ぶのだろうか?
前見た時はまだ夏野菜ばかり並んでいたけれど。
秋の野菜ってなんだろうか。
食材をほとんど産直市場で買うので、季節の野菜がいやでも記憶に定着する。
ずっと外で生きているので、季節を感じられるのもこの旅の良いところだ。
歩いた距離:22km