歩いて日本一周ブログ

歩いて日本一周する記録とか雑記

県民の森

昨日はブログは書いたのだが、電波が悪く、更新できなかった。

以下、昨日の日記。

 

備後と秋の気配

早朝、寒くて寝袋から出たくなかった。

ああ、これは久しぶりの感覚だ。

これからどんどんこうなっていくんだなあ。

もぞもぞ起き上がり、テントの外に出て立ちションしてすぐ戻り、朝食を食べた。

 

毎朝朝食後にうんこにいきたくなる。

周辺にトイレはなく、また野糞できそうな雰囲気でもない。

少し離れたところにある、備後落合駅まで歩くことにした。

駅にトイレがなかったら終わる。

肛門括約筋をフル活用してたどり着いた駅には、トイレがあった。

 

終わって落ち着いてみると、この駅は田舎の駅として非常に風情がある。

駅舎に入ると、古い写真や新聞が壁に飾られ、小さな棚に小説などが置いてある。

ノスタルジックな落ち着く駅舎だ。

訪れた人が自由に書き込めるノートがあって、ちょうど昨日の日付で、原付日本一周の人が来ていた。

駅を利用した訳でもないし、書き込みはしなかった。

外には周辺の地図があった。

僕が目指すのは比婆山登山口のある広島県民の森である。

さっきテントの中でグーグルマップで見たところ、非常に綺麗な場所だった。

キャンプ場もある。

まさにゆるキャン△で出てきそうな雰囲気だ。

紅葉が非常に綺麗で、写真は秋のものばかりだった。

早春の、木々に葉がまだついていない時の写真も趣深かった。

これは楽しみだと思っていたのだ。

ここまで14kmしかないので、今日は時間に余裕がある。

寄り道しても良いかもしれない。

 

テント場まで戻る途中、さっきマップでトイレを探した時に、田舎写真の屋外ギャラリーがあったのを思い出した。

少し歩いた所の民家の前に、木の椅子とテーブルがあって、その前の壁に写真が飾ってあった。


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古い茅葺き屋根の家と水車。

花火は結局、今年は見れなかったなあ。

富士山のようにきれいな形のこの山はどこの山だろう?

そうして眺めていると、郵便受けから新聞を取りに、民家から人が出てきた。

「おはようございます」

「あ、ええ、おはよう。写真、なかなかなもんでしょ?」

「ええ、とても良い写真ですね。これは、どこの写真ですか?」

茅葺き屋根の家を指さして聞いた。

「これは岡山の、東城からもっと東に行ったところの」

「へぇ、まだあるんですかね?」

「あるよ。最後に行ったのは2年前やけど、屋根が古くなってて、もう写真は撮れんくなっとったなあ」

「そうですか…。この花火はどこかの?」

「いや、これは地元の。毎年やっとって、7月の25やったかな。8月の27にもやったけど、行かんかったなあ」

「今年は、花火が見れなかったんです」

「そうかあ。次の28かなんかに、三次で花火があるよ」

三次か。通るけど、28じゃあさすがにもう通り過ぎてるな。

なかなかその土地の花火大会と僕の訪問は噛み合わない。

「この山は、どこの山ですか?」

「それは大山」

「ああ、鳥取の」 

「そう。ほうき富士とか言われてな。ようこれ見た人が富士山かって間違える」

「綺麗な形してますもんねえ」

「これは1月に撮ったやつかな。雪がないと、あんまりやけえ」

少し話して、テントに向かった。

 

早朝の冷たい空気。

僕はこの空気が好きだ。

これは幼少期の体験に由来している。

父方の実家も母方の実家も関東にあったから、祖父母に会えるのは夏休みと決まっていた。

小さい頃、夏休みになると、祖父母の家に滞在するため、持ちきれない程の荷物を車まで往復しながら運んだ。

セレナの2列目3列目を倒してフラットにし、そこにマットや毛布を敷いて眠れるようにして、夜中出発、父の運転で、奈良から関東まで、翌朝に着く旅だった。

夜はうきうきで兄や妹とはしゃぐが、すぐに寝てしまって、起きるのは早朝のサービスエリアだった。

そこでトイレのために車を出ると、早朝の冷たい空気が胸をくすぐった。

その感覚が今でも、言葉にはしにくい嬉しさや風情、ときめきのような気持ちと結びついている。

 

冷たい空気は、秋の訪れを伝えていた。

9月はもう秋なのだろうか。

けれどまだ紅葉には早い。

晩夏とも言えるかもしれない。

道路の縦に細長い電光掲示板には、17℃の表示。

それを見て、諦めるように思った。

もう、夏も終わりかあ。

そう思うと少し寂しくもあった。

でもこれから秋が始まると思うと、それはそれで楽しみなのだ。

 

橋を渡る。

冷たい川がさらさらと流れていた。

川を囲うように生い茂った緑は、これから秋の空気にさらわれて行くのだろう。

広島の山は、穏やかな顔をしている。

季節の気配が、ことさら味わい深い。

 

 

幻の…

歩き始める前のラジオ体操の時から、何やら身体の調子が良いとは思っていた。

その感覚はザックを持ち上げた時にはっきりしたものになった。

軽っ!

ザックが軽い。

もちろん急にザックが軽くなるわけないから僕の調子の問題だ。

その後歩いていてもやはり身体が軽い。

これはまる二日程歩かずに休んだ後の感覚である。

なぜだ。

今日は連続で歩いて6日目だ。

そろそろ疲れて来ておかしくないはず。

それが何故か逆に回復している…。

思い当たることは1つしかなかった。

昨日の温泉か…?

あのシャワーすらなく、ちょっと汚い温泉のおかげなのか?

だとすると、ひょっとするとあれはとんでもない秘湯だったのではないか…?

いくら泉質が良いったって、温泉に入ってここまで効果を実感したことはない。

本当にあれのおかげなのか…?

うーむ、不思議なこともあるものだ。

 

比婆山に向かう道を歩いていると、前に軽トラが止まっている。

外から軽トラに向かって何かしていたおっちゃんが、僕に声をかけた。

「どこまで行くんや?」

比婆山に向かってます」

「おお、てことは県民の森か」

「そうです」

「まだ結構あるで。乗せてったろか?」

「いえ、大丈夫です」

「いや、全然乗せてくで」

「いえ、あの、僕は歩いて日本一周してまして」

「歩いて日本一周!? まじで!?」

「はい」

「え、どこ出身?」

「奈良です」

「どこスタート?」

「奈良です」

「いやあ、え、じゃあ西に向かって来たところか」

「そうですね。奈良からまず和歌山に向かって……

……て感じで。歩いてやってるので車には乗れないんですよ」

「はあ〜、ポリシーがあるんやな」

ここまではよくある会話だったのだが、ここから面白い話が聞けた。

「広島に来たってことは、ヒバゴン知っとる?」

ヒバゴン? ゆるキャラですか?」

「いやいや、ゆるキャラちゃう。1970年頃な、類人猿みたいな、でっかいのがこの辺で目撃されてな。UMAって言われて」

「へえ」

「それの第一目撃場所があそこ」

と言っておっちゃんはすぐそばの谷を指さした。

「え、あれですか?」

「そうそう。結構話題になって、テレビとかも来てる」

つい半年ほど前も芸人が来たらしく、その映像を見せてくれた。

せっかくなので第一目撃場所まで行く。


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「今は木運ぶために道ができとるけど、当時は何もない。森やな。当時は結構あちこちで目撃されて、この辺はみんなで騒いどったらしい。もう俺が生まれた頃の話やから、詳しくは知らんけど」

「へえ。じゃあ他のUMAなんかより信憑性のある話なんですかね」

「うん、色んな人が見てるからな。映画にもなったんよ」

比婆郡に現れたからヒバゴン

面白い話を聞いた。

 

ちょっと思い当たることというか、思いだすことがあった。

MASTERキートン』という漫画にあった話で、日本の話ではないのだけど、とある土地で伝説となっている怪物がいた。

ある少年はその怪物と友達になって遊んでいる、と言うのだけど、怪物なんて本当にいるはずないから、大人たちは誰も信じない。

ある時、あれがどういう流れだったか記憶が曖昧なのだけど、悪い大人たちにその少年が危ない目に遭わされる。

その時に、その大人たちを少年の『友達』が倒して、少年を守るのだ。

最後に出てくるのは、オランウータンが少年を抱えている場面だ。

数年前に、動物園から脱走したオランウータンが、森に住み着いていたのである。

また、エドガー・アラン・ポーが書いた歴史上初とされるミステリ小説『モルグ街の殺人』もそういう話だった。

つまり僕は、このヒバゴンとは、どこかの動物園か、あるいは護送中に脱走したオランウータンではないかと思ったのだ。

オランウータンは賢い。森の賢者と呼ばれるほどに。

この辺りの気候で生きていけるかは分からないが、冬を経験しないなら、可能だったと思われる。

1970年代の話だから、そういう事故が起こった時、当事者がその事実の隠蔽を図りそれが隠しきれてしまったとしてもあり得なくはないだろう。

もちろんただの想像ではあるけれど……。

 

 

県民の森

スタート地点から14kmだったので、昼休憩無しで県民の森まで歩いた。

着いてすぐ、昼休憩にした。

県民の森には、一つ大きな建物があり、お土産を売っていたり、カフェをやっていたり、宿泊もできるようだった。

当然綺麗なトイレがある。

フリーWiFiがあり、中で休憩もできるので、ここでアニメを観ることもできる。

次にキャンプ場が2つあるようなので、下見に行く。

残念ながらキャンプ場以外の場所でキャンプすることは禁止とはっきり書かれていたので、無料キャンプは無理だ。

せっかく金を払うなら良い思い出をさせてもらおうと、良いサイトを探した。

キャンプサイトまでの道に、県民広場があった。


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芝生がずっと広がり、とても気持ちが良い。

もみじがたくさん生えているので、秋になればさぞ綺麗だろう。

しかしなぜここでテントを張れないのか。

ここほどキャンプに良い場所も無いだろうに。

その後見つけた第一キャンプ場とやらはもうひどくて言葉も出なかった。

見通しは悪く、木々の間に枠で囲まれた場所がある。

影になっていて小バエが大量にいる。

ここは駄目だ。

次に来たサイトは、地図になかったもので、広めのサイトで、枠で囲まれていない。

2つあった。

3つ目のサイトもなかなか見通しが良く、炊事場もある。

電源があるのでここで充電できるだろう。

ここだな。

有料のキャンプ場を使うのは久しぶりだ。

思い浮かぶのは金剛山キャンプ場だが、あの後どこかで泊まったっけ?

思い当たらない。ひょっとすると2回目かもしれない。

金剛山キャンプ場はかなり良かった。

500円だったし。

ここは金剛山キャンプ場程ではないが、まあなかなか良い。

500円てとこかな。

1000円だったらひどいな〜と思いながら管理棟へ行った。

入口に、新しいサイト設置、とさっきの広いサイトについて書かれていた。

どうも広いサイト全部を貸し切りにできるらしい。

一山丸ごと、と書いてあったが、一山は言いすぎだろう。

値段は3000円。まああの広さなら10人いても広々使える。

僕は一人なので小さいのでいい。

「すいません、キャンプサイトを使いたいのですが」

「ありがとうございます。こちらの用紙にご記入お願いします」

「いくらですか?」

「3000円になります」

「え?」

3000円…?

「あの普通のサイトもですか?」

「普通のサイトとは?」

いやだから、あの広いやつじゃなくていいんだって。

地図があったのでそれを指さしながら。

「第四キャンプ場とか」

「どのサイトも3000円になります」

本気で言ってんのか?

正気か? あそこが?

「そうですか。分かりました。じゃあやめときます」

「え? いや、大丈夫ですか?」

ここは山奥で、ここまで来てキャンプ場利用を取りやめる人間なんていないのだろう。

だが3000円は無理だ。

「はい。ありがとうございます」

去り際、さすがに3000円はないんじゃないか、僕の聞き方が悪かったんじゃないかと思い直し、振り返ってもう一度聞いた。

「あの、一人で一泊するだけでも3000円なんですよね?」

「1サイト3000円です」

つまり、何人であろうと1サイト3000円なのだろう。

だとしても高いよ。

まあ、ファミリー層が厚いなら、その価格設定もおかしくないか。

5人家族でも3000円なら、一人頭600円。

まあ、ねぇ…。

 

急遽キャンプ場が使えなくなったので、別の場所を探さなければならない。

アテがないわけではなかった。

山の上にキャンプ場があったはずなのだ。

調べてみると、なんと無料キャンプ場がある。

しかし、明日する予定だった登山が今日になり、一番高い烏帽子山を今日登る必要がある。

疲労はそこまでない。

よし、行くか。

 

 

登山

思いのほか楽に登ることができた。

疲れないわけではないが、午前中14km歩いてきたにしては楽だ。

本当にあの温泉何だったんだ?

最初の毛無山に登頂する。


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展望が良く、山頂も広場になっているので、ここでも寝れそうだ。

 

一度峠まで下りて、そこからまた烏帽子山に登る。

今度は結構きつかった。

汗が大変なことになり、背中から腰、脚の先まで、身体の背面がぐしょぐしょになった。


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ここでしばらく休憩した。

ここから降りればキャンプ場がある。

 

 

吾妻山キャンプ場

烏帽子山と吾妻山の間にキャンプ場はあった。


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広々したサイト。


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なんと炊事場がある。

蛇口から水は出ないが、すぐ横から山の水が汲める。


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冷たい。


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綺麗なトイレもある。


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なんと綺麗な小屋が自由に無料で利用できる。

何だここは?

良すぎる。

あまりにも良すぎる。

こんな場所があっていいのか。

もはや宿に素泊まりしているようなものだ。

これは歩いてきた甲斐があった。

もし麓のキャンプ場が500円だったら利用していただろう。

あそこが3000円だったおかげでここに泊まれた。

そう思えばこれで良かったのだ。

テントを張るにも良い場所だったけれど、小バエが鬱陶しいので小屋に入って小屋で寝ることにした。

 

その前にちょっとしたハプニングがあった。

食糧袋の中で油の蓋が開いて、中身が全部流れたのだ。

このハプニングはもう何度も経験している。

何なら今日他に醤油も蓋が開いて、すぐ気づいたから少しですんだが、ザックから醤油の匂いがしている。

困るのは油が全部流出して、もう少しも残っていないことだ。

これは困る。

押して閉めるタイプのキャップだと、圧迫された時に蓋が開いてしまうのだ。

醤油は、熱くなると揮発するらしく、圧迫していなくても勝手に蓋が開くので、回転式のキャップのアルミ缶に詰め替えてある。

だがアルミ缶に入り切らなかった分は仕方ないのでそのまま入れていたら、今日蓋が開いてこぼれた。

前に酢も蓋が開いてこぼれた。

もう液体系は全部回転式キャップの容器に詰め替えなければ駄目かもしれない。

 

電波が通じないのでラジオが聞けない。

いつもスマホのラジコアプリで聴いているからだ。

久しぶりに静かな夕食は、何か変な感じがした。

 

 

歩いた距離:18km