今日も、色々なことがあった。
元々、ブログは不定期で書くつもりでいたけれど、今では日記のように思って、毎日書いている。
今のところは。
日記と言っても、一応公開している文章なので、自分の内面に深く関わり過ぎていることは書きにくい。
とはいえ、そういったことこそ日記に残しておきたいものだ。
そこでブログとは別に日記を書くことも考えたのだけれど、それも面倒だし、どうせ読んでいる人もごくわずかだろうから、ここに全部書いてしまおうと思う。
朝から快晴だった。
早々にテントをたたんで、準備をしていると、登山に来たおじさんに挨拶をされ、挨拶を返した。
おじさんは「今日は…」と言って空を見上げると、
「絶好ですね」
とこちらを見た。
「めちゃくちゃ良い天気ですね」
と答えると、嬉しそうに笑った。
もちろんそれは、絶好の登山日和ですね、という意味だった。
ここは葛城山登山口であり、ロープウェイで登る人もいるけれど、とにかく山を登るための人が来るところだ。
しかし僕は、心の中で、絶好の洗濯日和だな、と思っていた。
左足のくるぶしと、両脚の腿の外側が痛むため、今日はお休みと決めていた。
汚れた衣服をトイレの手洗い場で洗い、邪魔にならない所で乾かした。
重い荷物から小さなバックパックを取り出し、そこに必要最低限のものを入れる。
大きな方のザックにはシートをかけておいた。
これで誰も気にしないだろう。
小さなバックパックを背負い、図書館に向けて歩き出した。
意気揚々。
足は少し痛いけれど、気分は快晴の空のように晴れやかだった。
家を離れて、外で野宿するような日々を過ごしていると、これは不思議なことなのだけれど、天気が大きく気分に影響する。
空がよく晴れていると、気持ちも晴れやかで、くもりだともやもやして、雨だと感傷的になる。
歩く道は、緑に溢れていて、あちこちから鳥のさえずりが聞こえてくる。
鳴き声から何という鳥か当てたり、見つけてあれはジョウビタキ!などとやっていると、どんどん楽しくなってくる。
田舎道なので植物も豊富だ。
食べられる野草も結構ある。
昨日も同じ道を通ったはずだけれど、今日の方がずっと、素敵な散歩道だった。
荷物が軽いこと、寝食の心配がないことから、昨日ここを通ったときよりも心に余裕があったからだろう。
人生には、適度な余裕と緊張が必要だと思う。
余裕がないと、目の前のやるべきことにしか意識を避けない。
愉しいことを考えたり、ふとした景色に感動したりできない。
ただ生きているだけになってしまう。
面白みのない人生は虚しい。
一方で、余裕ばかりで緊張がないと、こちらは一見良さそうに思えるのだけれど、あらゆることに飽きてしまう怖さがある。
余裕があって、満たされていて、生活にはなんの問題もないのに、いや、だからこそいつも退屈している。
何をやっても、面白みが感じられなくなる。
面白みのない空虚な人生になる。
それも良くない。
散歩道は面白みに溢れていた。
途中で大型犬を四匹も連れた人とすれ違う。
旅を始めてから、犬の散歩をしている人とよく出会う。
ちなみに僕は犬か猫なら猫派だが、猫アレルギーの猫派だが、犬なら大きいのが好きだ。
大きければ大きいほど良い。
いつか自分より大きな犬を見つけて頼んで、背中に乗せてもらおうと考えている。
カーブミラーに繋がれた犬がいた。
その犬は信じられない程造形が整っていた。
しばらく見つめていても吠えないので、そろりそろりと近づいていくと、かまってほしそうに後ろ足で立ち上がる。
思わず撫でてしまった。
あまりに可愛いので、大きな犬が好きということどころか、猫派であることすら揺らぎそうだった。
目をぱっちり開けているところが可愛かったのだけれど、スマホを向けると恥ずかしいのか、顔をそらしたり目を閉じたりして上手く撮らせてもらえなかった。
犬と別れると、キジを見つけた。
見間違いかと思って追いかけると、まごうことなき立派なキジだった。
この写真の枯草色の植物だが、先端についている同色の塊は穂ではない。
全てカマキリの卵である。
図書館に着くと、昨日最後まで読めなかったアイネクライネナハトムジークのラストを読んだ。
終わり方もなかなか良かった。
なんとなしに読み始めてしまったが、伊坂幸太郎の本に変えようかな、と思いつつ、面白いのでのめり込んでしまった。
本を読んでいると頭が痒くなってきた。
旅に出てから頭を洗っていない。
そこで昨日行った公園に蛇口があるのを思い出し、公園ヘ頭を洗いに行った。
公園ヘ頭を洗いに行くというのは可笑しかった。
公園にはたくさんの親子連れがいた。
晴れた日曜日というのもあるだろうけれど、随分人気のスポットらしい。
公園の蛇口で頭を洗うのはそれほど変わった行為ではないと思うので、周りの目は気にならない。
ついでに昼食をとり、オカリナを何曲か吹いた。
図書館に戻って有頂天家族の続きを読み始めた。
困ったことに、また閉館時間までに読み終わらなかった。
残り一章だったのに。
面白い所だったのに。
図書館を出ると空は曇っていて、気分は沈んでいった。
左足はまだ痛い。
明日は山を登れるだろうか。
しかし明日また休んでも足が治る保証はない。
というか治らない気がする。
3日ぐらい安静にしていないと完治しないと見た。
通常なら難しくもない。
しかし旅をしている僕にとってそれは、3日間を無為に過ごすことを意味する。
何も進まないまま、時間だけが過ぎていく。
食料を買うとお金も減る。
それは結構なストレスだ。
まだ始めたばかりなのに、こんなことで大丈夫なのか。
左足は、歩いていればそのうち痛みを感じなくなる。
ただ、治っているわけではない。
悪化すると怖い。
もしかすると無視して歩いていても気づいたら治っているかもしれない。
しかし…
うじうじ考えているとどんどん気持ちが沈んでいった。
やがては旅自体への不安も持ち上がってくる。
一番の不安は、日本一周を達成できるか、ではなく、僕はこの旅を楽しむことができるのか、だった。
今は始めたばかりで、慣れないことが多く、余裕があまりない。
今日は例外的に余裕はあったが、荷物を背負って歩いていても余裕ができるようになるのか。
四日目にして、不安が押し寄せてきた。
まあ、こういうのは案ずるより産むが易しだ、と自分に言い聞かせる。
明日もなるようになるだろう。
なるようにしかならないのだ。
気持ちを切り替えて荷物の場所まで戻った。
被せたシートを取ると、大きな方のザックは大量のアリにたかられていた。
ぎゃー!
歩いた距離:5km