朝読書
目が覚めるとものすごい暴風がテントを揺らしていた。
スマホを確認すると、香川県には強風、波浪、雷の注意報が出ている。
外は寒そうだ。
出たくない。
のろのろ着替えて、公園のトイレに行く。
風が強い。
朝食は昨日お婆さんにもらった500円でうどんを食べるつもりだった。
店は8時半に開き、店まではすぐだ。
時刻は5時半。
今すぐテントをたたんでも行く場所がない。
考えてみれば、公園は広く、テントは目立っていないし、暴風の中人が来るとも思えない。
8時まで寝袋に入って本を読むことにした。
肌寒い朝の時間を、風のないテントで寝袋に入りぬくぬくしているのは気分が良い。
読むのは『キノの旅』。
バイクに乗ったキノという旅人が様々な国を訪問する話だ。
大陸の中に、城壁で囲まれたいくつもの国があり、それぞれに独特な文化や価値観が在る、しかし言語は基本同じ、という世界観だ。
変わった国がたくさん出てきて面白い。
1話完結型なので、好きなときにちょっと読めるのが良い。
大分前に全巻(二十巻以上)買って、ちょくちょく旅先で読んでいる。
今は十七巻だ。
好きな本や漫画はできるだけ紙で欲しい気持ちがある。
これは手触りを楽しみたいなどの理由もあるが、一番は物として所有する感覚が好きだからだろう。
コレクション欲と言うのか。
しかし電子書籍はどこでも読めるので便利だ。
旅だと、大量の本を持って移動するのは難しい。
それに、スマホさえあれば、ふと暇ができた時、特に読もうとして本を持っていなくても読める。
便利なのは電子書籍だ。
それにちょっと安いことが多い。
丸亀市のうどん
香川県では高松と丸亀でうどんを食べておきたかった。
両方激戦区だ。
今日は麺処綿谷といううどん屋に行った。
肉ぶっかけうどんが人気らしいので、それを頼む。
甘辛の肉、それにネギと天かすをたっぷりかけてうどんと一緒にいただく。
最高に美味い。
出汁も美味しい。
素晴らしい味だったが、一つ思ったのは、讃岐うどんで、『肉ぶっかけうどん』や『釜バターうどん』など、その店の人気メニューが、変わり種というか、ノーマルなかけうどんでないことが多い理由。
それは、地元の人は普通のうどんを食べ飽きていて、だから何か載っている方を好むのではないかということ。
うどん屋が一番こだわっているのはうどんと出汁であり、それを一番に楽しむならやはり一番安く、何も載っていないかけうどんなどだと思う。
それにネギと天かす、しょうがなどを好きにかけていただく。
香川県に外から来た人が最初に食べるにはこれが一番良いと思う。
肉ぶっかけうどんは美味かったけれど、一番人気イコール店の最もこだわったメニューという常識は讃岐うどんでは当てはまらないと思う。
まずはかけうどん、それから何か載ったうどんの順が良いのではないか。
道の駅
風が強すぎて、また足が疲れていて、三崎まで歩く気にならなかった。
手前の道の駅に行った。
四国の道の駅には、スタンプが置いてある。
僕は旅のスタンプ帳を持っているので、道の駅に入るたびにスタンプを押す。
いつものように適当に売っているものを眺めて何も買わずに外に出る。
すると、「こんにちは」とおばちゃんに声をかけられた。
「こんにちは」
「ずっと歩いてるの?」
「ええ、そうなんです」
角度的に、日本一周の文字は見えていないのだけど、嬉しい提案をされた。
「そこで売ってるパンが食べたいのだけど、大きくて全部は食べられないの。もし良かったら半分食べてくれる?」
もちろん一も二もなく了承した。
「ありがとうございます!」
少しすると、パンを2つの袋に分けて持ってきてくれる。
「どうぞ。あとね、お茶があったの。…あれ、どこだったかな? あ、あった、はいこれ。
それと、お菓子とか、アレルギーはある?」
「ないです」
「良かった。これ、青のりの美味しいお菓子。それと今食べてる飴が美味しいの。これもあげる」
次々とカバンから食べ物が出てきて、それをくれる。
未開封のお茶が出てきた辺りから、きっとパンも半分以上僕に食べさせるために買ってくれたんだろうな、自分の分がついでで、と気づいた。
「美味しそうです。ありがとうございます。助かります」
あるだけの食べ物を僕にくれると、おばちゃんは満足そうに帰っていった。
「気をつけてね」
「はい」
香川の西は最高である。
温泉
この道の駅は温泉がある。
むしろ温泉以外はついでという勢いで、立派な温泉があった。
入浴料は700円。
特に体が汚れている感覚もないのに、温泉は贅沢かなあ、とも思った。
しかし思い返すと旅を始めて二〇日程経つのに風呂に入ったのは1回だ。
そろそろ2回目の風呂に入っても贅沢とは言えないのではないか。
知り合いにマダガスカルで2週間体を洗わなかった日本人がいるが、ここは日本である。
清潔さは望めないけれど、話しかけてくれた人が不潔さに眉をひそめるような事態は避けたい。
久しぶりの温泉は思わず笑ってしまうほど気持ちが良かった。
湯に入り、熱くなってきたら露天風呂のそばにある椅子に座って体を冷ます。
そしてまた湯船に浸かる。
最高のサイクルだ。
1時間半程楽しみ、あがる。
リクライニングチェアのある休憩スペースはコンセントもあり、ガラガラ。
キノの旅の続きを読む。
そして今これを書いている。
スマホを充電しながらいつまでもいたいけれど、夕飯を作らねばならない。
そろそろ出なければ。
明日は三崎まで歩き、さらに有明浜まで行けたらいいのだけれど、どうだろうか。
まあ、明日にならないと分からない。
歩いた距離:17km