朝は日の光と鳥の声で目覚める。
おそらく四時半頃に目が覚めているのだが、絶対にまだ起きてやるものかと固い意志を発揮して寝袋に潜り込む。
やがて5時頃になると、一部しか鳴いていなかった鳥は一斉に鳴き出し、森の中は鳥のさえずりで騒がしいほどになる。
白い光が目を刺す。
仕方ないなぁ、と観念して僕は起きる。
歯をみがいていると、ここ数日ですっかり聞き慣れた鳥の声が近くから聞こえてきた。
「ちょっと来い、ちょっと来い」
と鳴くと知られるコジュケイ(小綬鶏)である。
ウズラみたいな鳥だ。
ハトと同じか若干大きいぐらいの大きさで、見てみたいとは思っていたけれど、姿を見たことはなかった。
これはチャンス、と口に歯ブラシをくわえたまま飛び出し、声のする方へ近づくと、写真で見た通りのコジュケイの姿があった。
今日は朝から良いことがあった。
金剛山は自然豊かで、日本各地で天然記念物指定されているギフチョウも生息しているらしい。
ちはや星と自然のミュージアムから、金剛山の草花に関する図鑑が3冊セットで出ている。
これを眺めながら金剛山を散歩するのはさぞ楽しいことだろう。
大阪に自然なんてないと思っていたけれど、金剛山はなかなか良い場所である。
山頂は大阪にないけれど…
今日は道の駅ちはやあかさかを目指す予定だ。
道の駅ちはやあかさかは日本一かわいい道の駅らしい。
どんなところなのか楽しみだ。
歩いてみると、本当に山に抱かれた村で、こんな場所が大阪にあるなんて、都心にいる人は信じないのではないかと思う。
道の途中で雨が降り出した。
しんしんと降る雨は感傷的な気分を誘うが、今日はそれが良かった。
誰もいない小さなバス停に座ってオカリナを吹いた。
真夏の果実、風の通り道、裸の心。
雨とオカリナに心が癒やされる。
今日は良い日だ。
しばらく歩くと雨は止んだ。
途中、良いサイズのイタドリ(山菜)が生えていたので採取してザックの脇に差した。
今日の夕飯で使おう。
ガソリンスタンドを見つけ、コンロ用の燃料を補給した。
焚き火ができる所は少ないのでコンロは必須だが、一般的なガス缶を使うキャンプ用コンロだと、空になったガス缶を捨てる場所がない。
そこでSOTOのレギュラーガソリンを燃料にできるコンロを使っている。
補給場所はガソリンスタンドぐらいしかないが、今ガソリンを使った事件がいくつも起きているせいで、車に直接入れる売り方しか許可しない場所が増えてきた。
田舎だったからか、特に問題なく入れてもらえてホッとした。
実は燃料のことはそろそろ補給しないと…と憂慮していたところだったのだ。
下赤坂の棚田というのは、日本の棚田百選にも選ばれる美しい場所らしい。
と、看板に説明があったので行ってみた。
時期が悪く、青々とした稲も水の張った田んぼも見られなかった。
また今度、ちょうどいい時期に立ち寄った棚田を見てみたい。
道の駅ちはやあかさかに着いた。
と思ったら、火曜日は定休日らしく、やっていなかった。
残念。
さらに歩いて道の駅カナンに着いた。
野菜を買って出てくると、おじさんに声をかけられた。
この人が面白い人で、彼も旅が好きでカナダから北極圏まで3ヶ月自転車で旅したり、子供の頃に歩いて近畿を回ったりしたらしい。
今やっている旅のことを話すと、
「楽しそうやなあ。代わってよ」
と言ってきた。
もちろん、代わってやらない。
大台ケ原からバイクで帰ってきたところだそうで、途中買って食べたナントカ餅の残りがあるけどいるか、と聞かれたので一も二もなくもらった。
食べ物はいつでも何でもほしいのだ。
旅は旅好きを呼ぶ。
旅好きの人は僕を見かけたら是非声をかけて欲しい。
きっと話が弾むはずだ。
…ついでに何か食べ物があったらください。
おじさんと話してやる気が出たのでもう一つ先の道の駅まで行くことにした。
なんだか道の駅めぐりみたいになっているが、これには理由がある。
道の駅は車中泊する人も多いし、旅人がよく来る。
だから駐車場の隅っこなどでテント泊しても怒られないことが多いのだ。
もちろん、テント泊が公に認められている訳では無いので、そこは勘違いしてはいけない。
また、ゴミ箱があり、トイレもある。つまり水道がある。
たいてい農産物直売所があり野菜が安く、場合によってはフリーWiFiがあるなど、とにかく便利なのだ。
今日は道の駅そばの川の河川敷から少し高くなった誰の邪魔にもならなそうなところ、橋の下にテントを立てた。
道の駅とスーパーで食料を買ったが、少し失敗した。
道の駅で安いと思って買った野菜が、別の農産物直売所でもっと安く売っていた。
スーパーで米2キロを税込み1200円程で買ったが、今いる道の駅なら700円程で買えた。
これは後に活かせる失敗だ。
米は安い所で買おう。
この旅にも慣れてきている。
楽しくなってきた。
明日は、温泉に行こう。
歩いた距離:15km