午前四時、体がふわりと浮き上がる妙な感覚で目が覚めた。
最初は寝ぼけながら何が起きているのか分からずに放っていたのだが、何度もそれが来ること、同時に聞こえてくる音から現状を理解し、跳ね起きた。
波がテントまで来ているのだ。
先ほどから体を浮き上がらせていたのは、波が体の下を通ることで起きていた。
危ないかなとは思っていたのだ。
しかしどうせ今日この場所は去るのだし、昨日まで波がかかることもなかったのでそのままにしていた。
急いで潮見表を確認する。
今日は大潮ではない。
昨日より数cm高い程度。
満潮は4:31。
それなら、なんとかなるか?
30分でどれだけ潮位が上がるのか分からないが、現状水はテントに入ってきていない。
大体テントを動かすのは容易ではない。
テント内には物が散乱していた。
4:15。
これはやばいのではないか。
先ほどから強い波が定期的に体の下を通り抜けていく。
テントを立てている場所は傾斜があるのだが、ズンズン波が登ってくる。
15分でこんなに上がるのか。
あと15分耐えられるか?
しかし、外は断続的に雨が降っている。
もしテントの下に穴が空いていて、浸水してきているなら、一刻も早くテントの中身を全て放りだし、テントを動かすのだが、今それをやると雨で荷物が濡れる。
それに現状、耐えてはいた。
モンベルステラリッジテントの耐水性は伊達ではない。
本気でテントに感謝した。
実は浜から一段高くなった場所に草むらがあり、そこにテントを立てていればこんな問題は起きなかったのだが、きれいな花や直立する植物が生えていて、テントを立てると押しつぶすことになるので避けたのだった。
とはいえこうなるならもっと時間をかけて別の場所を探すのだった。
今度海辺にテントを張る時は絶対に波が届かない場所に張ろうと決意する。
潮はいよいよ高くなり、波が来るたびにテントの下を通り抜けていく。
そもそも、なぜこんなに波が強いのだ。
早朝は風も波も穏やかではなかったのか。
もちろんそれは天候によるのだが悪態をつかずにいられない。
風が吹いていなければ、ここまで波は強くなかった。
雨が降っていなければ、すぐにテントを動かせた。
しかし今回のことは教訓として覚えておこう。
4:31。
力強い波が体の下を通り抜けていく。
波が終わったわけではないけれど、とりあえずこれ以上ひどくならない。
それから30分と少し。
波はまだ時々来るが、体を浮かすほどのことはなくなった。
テントの隅に少し水が溜まっている。
舐めてみると少しだけ塩辛い。
汽水の味がした。
左足を休める必要があると昨日は思っていたけれど、今は足に痛みを感じないし、このです場所は移動しなければならないのだから、歩いてしまおうか、と考えていたら、天気予報で今日は一日雨であった。
11時まで60%で、13時まで70%、その後は80%だとか。
徳島市には強風注意報と雷注意報が出ていた。
これでは進めない。
折りたたみ傘があるので小雨なら傘をさして歩くことができなくもないのだけれど、風が強いとダメだ。
雨がひどくなる前にと急いでテントを撤収した。
雨の日は読書に限る、ということで、図書館も行った。
前に読んだ森見登美彦の有頂天家族のシリーズ第二弾があったので読み始める。
これが結構ページ数があり、なかなか進まない。
時々外を確認するも、雨は降っていないようだった。
おかしいな、今日は雨の予報なのに。
歩ける日に歩いていないような気になって、落ち着かなくなる。
とはいえ、いつ降り出すか分からない。
それに足を休めることもできるからこれでいいのだ。
途中昼食をとって、また読書を再開する。
読み終えた時、時刻は5時を過ぎていた。
話は面白かったが、外は雨が降っていないのでまた落ち着かなくなった。
最近よく天気予報が外れる気がする。
と言っても、降水確率80%は20%の確率で雨が降らないのだから、別に予報が外れているわけではないのだけれど。
天気予報でくもりとあったから歩いたら雨に襲われる、というのも困るが、雨とあったから休んだら雨が降らない、というのもなんとなく憂鬱にさせられる。
しばらく明日どこに向かうか考え、図書館と同じ建物のスーパーを冷やかしてから外に出ると、雨が降っていた。
今日は近くの公園で寝るつもりだったが夕食はどうしようか。
雨の中調理をするのも大変なので、コンビニでカップ麺を食べることにした。
雨はどんどん強くなった。
風が折りたたみ傘の脆弱な骨をきしませる。
雨風で体が冷えてきた。
ファミリーマートの看板が見えると、ほっとした。
なんとなくカレーが食べたい気分だったこともあり、カレー麺にした。
『ゆるキャン△』というアニメで、主人公がカレー麺を美味しそうに食べるシーンがあるのだが、それを見てからカップヌードルカレー味を選ぶことが増えた。
とても美味しく、体が温まった。
歩いた距離:3km