友人
高知に友人がやってきた。
昨日来ると連絡があり、夜行バスで今日の朝こちらに着く。
いきなりのことだったし、別に近い距離でもない。
どういうテンションでやってくるのだ。
そもそも雨の高地で何をするつもりなのだ。
疑問はあったが、考えるのも面倒だし、来てくれるというならとりあえず歓迎することにした。
高知駅で待ち合わせて、おう久しぶり、よう来たな、と迎えた。
「で、今日は何をすんの?」
「ん〜、どうしよっか」
おい、こいつまじか。
僕は別に高知に詳しくないぞ。なんなら昨日着いたばかりだ。ちなみに金はないからよろしく。
何を考えてるのか分からない奴だとは思っていたが、ひょっとして何も考えずノリと勢いだけで高知まで来たんじゃないのか?
しばし高知駅正面の電子観光案内板の前で二人、立ちすくむ。
むやみにスクリーンを動かしては、ここはどう?いや遠いな…、などと十分以上の間やっている。
端的に言って邪魔である。
そもそも、時刻は朝6時。
どこも開いていないのだ。
高知城さえ営業時間というものがある。
とはいえ、友人もさすがに何も考えずに来たわけではないらしい。
目ぼしいスポットを調べてきてくれていた。
イチオシは沢田マンションという、増改築を繰り返しすぎてめちゃくちゃな形になったマンションらしい。
うん確かに面白そうだ。そしていかにもこいつが好きそうである。
普通に人が住んでいるので、中に入れるかは分からない。
ただ、グーグルマップでは、なぜか営業開始8時と書いてあったので、なんの根拠もなく入れるとしたら8時以降か、と納得した。
ただのマンションだぞ。営業開始ってなんだ。
第二に、大きな廃墟があったらしいが、最近その建物を改築する工事が始まったらしく、現在入れないらしい。
廃墟ね…。そういえば行きましたね、凶悪な心霊スポットとか呼ばれてる廃墟に。で、中で野宿するという…。
懐かしい想い出が蘇る。しかしそんなとこばっかか。
結局、少し遠いが歩いて桂浜まで行き、帰りに牧野植物園によるルートで決まった。
うん、まあそういうのでいいと思うよ。
雨降ってるけどな。
桂浜
桂浜に行くまでに、はりまや橋という橋を通った。
地名にもなっている有名な観光スポットで、よさこい節の歌詞になっているから有名らしい。
行ってみると、小さな赤い橋があった。
ちなみに現在橋として使われているわけではなく、渡れるが、普通に横に道もあるという状態だった。
近くに屋根と椅子があり、待ち合わせ場所になっているらしい。
見たいというので、僕が橋の下に張っているテントにもよる。
「あ、橋の下って、テントは張ってるんだ」
当たり前だ。じゃないと荷物置いておけないだろ。
桂浜までは13kmあった。
往復で26km。
荷物を背負っていないとはいえ、結構な距離だ。
僕は昨日までの疲労があったが、それでも荷物がなければどうということはない。
しかし友人の方は日頃の運動不足を呪いながら、桂浜を選択したことを若干後悔しているようだった。
「ちょっと待って…一旦タイム…」
「オッケー」
先に言っておけば良かった。
お前は歩くのが速い。
家から最寄り駅まで歩くのと同じペースで、10kmも歩いたらそうなるんだよ。
とかなんとかやりつつ、途中で雨が上がり、暑いぐらいの晴天となった頃、桂浜に到着。
室戸の方よりも大分砂の色が薄くなっている。
少なくとも黒ではない。
後ろの松の緑も海の青も美しい。
浜には綺麗な休憩所が建てられている。
椅子に座ってオカリナを吹いた。
『風になる』
坂本龍馬記念館にはそれほど興味がなかったのでパスして、坂本龍馬像だけ見に行った。
友人によると、高知といえばこれのイメージらしい。
確かに立派な像だった。
でも、桂浜には負けるな。
桂浜を出て、戻りながら植物園へ向かう。
それにしても、海の青が綺麗だ。
そろそろお腹が空いてきた。
金がないのだ、というと、友人はこちらに合わせてくれた。
スーパーでパンを買って昼食にする。
二割引の食パン一斤、84円。
さすがは消費期限が明日に迫った食パン、パサパサして美味しくない。
牧野植物園
牧野富太郎という人物は、日本の植物分類学の礎を気づいた人らしく、この人の出身に当たる高知に入ってから、たびたび名前を聞いた。
神木隆之介の写真と共に。
そう、朝ドラの影響である。
彼が作った植物園がこの牧野植物園である。
植物園の他、牧野富太郎の記念館も一緒に見ることができる。
入館料は750円。
植物園には興味があるし、たびたび耳にしていた牧野富太郎さんにも興味が湧いてきた。
このぐらいなら払う。
中に入ると、知っている植物から、見たことがあるような気がするが名前は分からない植物、全然分からない植物まで、名前と解説付きで生えている。
自然に生えているような様子が良い。
これはアキニレの写真だ。
山で普通に見られる珍しくない木だが、ここまで立派なのは初めて見た。
これは、50年ほど前、自然にここに生えたアキニレの幼木を見て、スタッフがこの木が成長した未来を想像しながら大切に育ててきたのだという。
温室に入ると、中には見覚えのある特徴的な植物や、見たこともないような外国の植物がいくつも展示されている。
アロエ軍団
幽霊の正体見たり白サボテン
ドラクエのいばらドラゴンにしか見えん。
バニラってこんな植物なんだ。
実の香りはバニラそのもの。
竹でか。
裏が面白い。
スポンジ状の葉脈で浮力を高めているらしい。
ヘゴ。美しい。
ジャングルゾーン。水場には魚が泳いでる。
ベンチがあればもっとゆっくり眺めていられたのに。
温室めっちゃ面白い。
温室から出ると、よくある植物が。
この硬そうなフキ、ツワブキっていうのか。
海岸近くでよく見た。
食べられなさそう。
よくある植物かと思いきや、ここらでは見られない植物も集まっている。
屋久島行った時は見てなかったなあ。
ただ展示されているだけでなく、花が咲いていたら、『咲いています』実がなっていたら、『実がなっています』と説明の所にシールが張ってあり、分かりやすい。
今はこれとこれは咲いてるけど、こっちは咲いてないのか。
花が咲くとこんなに綺麗なのか、是非見てみたいな、など、季節感と共に見ることができる。
じっくり見ていたら一日かかる。
園内には芝生広場や、飲食できる屋根とテーブル、椅子の置いてある場所など、休憩スペースも充実しているので、本当に一日いられる。
しかも、牧野冨太郎記念館には、牧野冨太郎の生涯や功績の説明だけでなく、牧野冨太郎や、植物に関する面白い本がいくつも並んだブックスペースがある。
中には椅子と机があり、リラックスして本が読める。
いよいよ丸一日いられるどころか、一日でも足りない充実度合いである。
牧野冨太郎さんの説明を読んで、誰よりも植物を愛した人だったことが分かった。
植物を前にしてニコニコと笑った写真ばかりだ。
生涯の全てを植物に捧げてしまうほどの愛。
これほどまでに一つのことに情熱を注ぎ、これほどまでに好きでいられる。
こういう人を天才というのかもしれない。
牧野植物園に来て良かった。
ここは高知で訪れるべき場所である。
ここに来れただけでも友人に感謝しなければ。
帰りは、脚が痛い、嘘、まだこんな所にいたん、もっと進んでると思ってた!、とうるさい友人に適当に返事をしながら高知駅周辺まで戻ってきた。
最後に、ひろめ市場で鰹のタタキ丼を食べた。
1000円だったし、鰹のタタキは高知の名物である。
食べておいて損はない。
当たり前だが、美味かった。
こうして大満足で一日を終えて、友人と別れた。
彼はこの後ネカフェに泊まり、明日は道後温泉に行くらしい。
僕も愛媛では是非入りたいものだ。
歩いた距離:27km