第一回職務質問
いつかこの時が来るとは思っていた。
しかし今日ここでとは夢にも思っていなかった。
職質は唐突にやってくる。
朝9時頃、外は雨。
小屋で静かに休んでいた僕のスマホに電話がかかってきた。
僕に電話をかけてくる人はかなり少ない。
そしてその番号を僕は一つも記憶していないので、誰かな、と思いながらとった。
室戸警察署の者ですが、と来たのでポカンとなった。
話によると、数日前から浜辺にずっとテントが張ってあり、声をかけても誰もいないし不審に思った、という住民から通報があったそうだ。
朝や夕方は中にいたのだけれど、昼はテント内がサウナになるので別の場所にいた。
まあ数日張っていれば不審に思うこともあるだろう。
ここには何もないから、わざわざこんな所で数日泊まる旅人なんて今までいなかっただろうし。
警察はテント内を調べて、中から僕の電話番号が書いてあるメモ帳を見つけて電話をかけたそうだ。
浜辺に降りると二人の警察官がいた。
中を開けたということは、ザックの『歩いて日本一周中』の文字は見ただろうし、持ち物も旅人としか思えないものなので、警察官二人の空気は剣呑なものではなかった。
雨が降っているので、浜から上がって、小屋の中で職務質問を受けた。
特にやましいところはないので、すらすら正直に質問に答えていった。
向こうも僕を犯罪者だと思っているわけではないので、穏やかに進行する。
僕の体調はかなり快方に向かっていたので、座って話すぐらいなんともなかったけれど、たびたび体調の心配をされた。
最後は、田舎はまだいいけども、都会だと助けてくれる人はいないからやばい時はちゃんと救急車を呼びなさいと、およそ警察から職質後に受けるものではない注意を受けて、僕の第一回職務質問は終わった。
歩いて日本一周を続ける限り、今後も職質を受ける機会はあるだろう。
やましいことをしていなければ、職質は特に怖くない。
法には触れないように旅を続けよう。
風雨
今日も今日とて小屋にマットを敷いて休んでいた。
この日は雨だと随分前から予報があったにも関わらず、昨日になってくもりの予報に変わっていた時は、なんだよ降らないのかよ、と肩透かしを食らった気分になったが、実際はしっかり降った。
雨だけならともかく、風が物凄いので、斜め三十度ぐらいの横なぶりの雨となり、傘など役に立たない。
僕は、安全圏から外の雨を眺めることで優越感に浸り、ピッコロが手足にはめていた重りを外すかのように、徐々に軽くなっていき元の力を取り戻していく手足に開放感を覚えていた。
昼食を作っていると、昨日泊めてくれたおじさんの奥さんがおにぎりを差し入れてくれた。
それと、自分で茹でた煮麺、卵焼きが今日の昼食である。
お腹の調子はほぼ治りつつある。
よく噛めば大体のものは食べられるはずだ。
ここで問題が起こり、卵焼きを焼き終わり、昼食が完成した瞬間、バーナーのガソリンが切れた。
午後は、ガソリンスタンドまで歩かねばならなかった。
傘など風で役に立たないのでレインウェアを着て行ったが、ありがたいことにその時雨は止んでいた。
ガソリンスタンドでレギュラーガソリン0.8リットルを買う。
140円。
液体燃料ストーブの燃料コスパはガスストーブとは比較にならない。
ガソリンスタンドのおっちゃんも苦笑いだ。
午前中、トイレに水族館へ行った時に、休憩所で野菜が売っていた。
トウモロコシ一本100円など魅力的だったが、メイクイーン袋入100円だけにしておいた。
これで夕飯にまたシチューが作れる。
今日は気力体力が回復してきたので、小屋でオカリナを吹いていた。
オカリナの音は誰に聞かれることもなく雨の向こうに消えていった。
明日は歩けると思う。
思わぬ停滞を強いられたが、旅をしている間、こういうことはある。
運転免許更新にはまだ間に合うはずなので焦らずに行こう。
明日、予定通りなら室戸岬を通る。
日和佐から高知への道は半分は室戸岬のためにあると言ってもいい。
このトンガリが旅人を魅了してやまないのだ。
歩いた距離:2km