アリ
昨夜は夕食を終え、片付けようとするとあらゆるものにアリが群がっていて、その時にここはとてもアリが多いことを知った。
だからこれは予想できていたことではあったのだけれど、翌朝目が覚めるとテント内はアリの群れに占領されたような状態だった。
面倒くさいなあ、と思いながらとりあえず無視して顔を洗いに外に出た。
テントに戻ってくるとアリは大量にいる。
特に食料袋に群がっている。
食料袋の中は様々な調味料が液漏れしたり粉漏れしたりして散々な状態で、袋をなめればさぞ刺激的な味がするはずだ。
これがアリを引き寄せるのだ。
まずは虫除けスプレーを取り出し、アリの群れに向けて吹き付けまくった。
これで殲滅できるとは思っていないが、毒を撒かれてオロオロしているのが分かる。
ザマァ見やがれ!
溜飲が下がったところで朝食を食べる。
今日はこのあと、食料袋から食料を出して、袋を洗い、ランドリーで洗濯し、テントから荷物を出してテントの穴を塞ぎ、テントを乾かし、とやることが多い。
とりあえず食料袋を洗ってランドリーに向かった。
洗い終えた洗濯物を持ってテントに戻ってくると、アリ共はほとんど死んでいた。
どうも最近買った虫除けスプレーは威力が強いらしく、直接吹き付ければ小さなアリを殺せるらしい。
これからテントから荷物を出してテントの穴を塞がないといけないのだが、日差しが暑くてそんなことする気にならない。
もうすべてを放棄したい。
テントから荷物を出す必要があったのは、アリを追い出すという意味合いが大きい。
穴は塞いでもどうせまた空くし、強力な虫除けスプレーをテントの周囲に撒いておけばアリは入ってこないかもしれない。
とにかくもうめんどくさいので全部放りだして図書館へ向かった。
図書館
向かった図書館では中で改修工事か行われていた。
聞けば図書館は別の場所に新しくできたらしい。
普段使っているYAMAPの地図は、街で使うとこういうことがある。
新しい図書館とやらは、田舎街の図書館とは思えないほど広く綺麗で、まるでお洒落なホテルのようだった。
洒落たテーブル席にクッション椅子、暖色のライト、席にはコンセントがあり、もちろんWiFi もある。
リラックスするのには最高の図書館だ。
その割に人でごった返しているわけでもない。
まあ平日だからか。
まずは伊坂幸太郎『残り全部バケーション』を読んだ。
面白い。
伊坂幸太郎は本当に良いな。
これほど素敵な伏線を張る作家はなかなかいないのではないか。
この話では、犯罪代行業のようなことをしている人物達が主役となる。
普通ならこういう輩は最後にはバチが当たってどうこう…なんて展開が予想されるが、伊坂幸太郎の小説では彼らは非常に魅力的な人物なのだ。
その中で、基本的には頭が良くて何でもそつなくこなす性格なのに、焼き肉屋からいらないメールが度々来て苛ついている人物がいる。
こういう一見なんてことない部分が人の面白さを演出したりする。
クライマックスでは、主役の一人がかつての相棒の仇討ちのため、犯罪業の親玉に銃を突きつけるのだが、親玉は、その人物は生きていると言う。
その確認のため、銃を突きつけた人物が、その場にいた男に、親玉の言うことが本当か確かめさせる。
その手段がメールであり、3分でメールが返ってこなかったら撃ち殺すと銃を構えた男は言う。
親玉の生死が託された男、つまりそいつは平時には焼き肉屋からのメールに苛ついている男なのだ、彼は極限まで緊張した空気の中、メールの返信を待っている。
残りの時間は1分を切り、静寂に包まれた部屋の中についにメールの着信音が響く。
そしてこの小説の最後の文は、男がメールを開く前に心の中でつぶやく、『焼き肉屋だったら承知しねえぞ』だ。
極度のシリアスの中の笑い。
素晴らしい伏線。
まあこれは読んでみないことにはこの終わり方の良さは感じてもらえないだろう。
まだミャンマーが今ほど発展していなくて、観光地として整備されていなかった頃、椎名誠を含めた4人組で旅行した体験記だ。
特にハードな冒険をしているわけじゃないけれど、異文化に触れる面白さがある。
マダガスカルに行ったときのことを思い出した。
何より、語り方が面白い。
探検記だとか旅行記を読んでいても、あまりシリアスな空気感が続くと僕はすぐに飽きてしまう。
探検記なんかは、その実際は危険で苦しくて余裕がないものだから、ひたすらにその厳しさや苦しさが伝わってくるのだけど、それだけであまり手に汗握るということが僕にはできない。
やっぱり旅とか探検、冒険というのは楽しいものであって、面白いものであって、少なくともそういうものであってほしいし、そうでないとやる意味もないと思っているので、ただただこんなに苦しいんだこんなに大変だったんだという文章は、まあ実際そうなんだろうしすごいとは思うけれど、読んでいて楽しくないのだ。
苦しくても大変でも楽しい旅や冒険に憧れるし、そういうものをやりたい。
そういう文章を読みたいし、書きたい。
ということを再認識した。
椎名誠という人は、なんかいつも楽しそうだから良い。
しかし問題が一つ。
僕は面白い旅行記や探検記を読んでいると文章の途中で本を閉じて自分がそこに行きたくて仕方なくなり、再び本を開いて文字を追っていてもいつの間にか空想の世界で自分がその土地に行っている様子を思い浮かべてしまう。
本なんて読んでいられなくなってそわそわしてしまうのだ。
そんな僕は今日本一周の旅の最中なのだが、そんなこと関係なくミャンマーに行きたくなりもう一度マダガスカルに行きたくなり、そのうち頭の中ではアマゾン川でカヌーを漕いでいる。
こんなリラックスした図書館の中でじっとしているなんてやってられるか!となるのだがそもそも体が疲れているから休んでいるのであり、ここでドタバタしても仕方がない。
気分を変えて気持ちを落ち着かせるため、別の本を探してうろうろ歩き回り何も見つからずに元の席に戻って来る。
当然、うろうろしている間頭の中で地球のあちこちをうろうろしているから本など見つかるわけがないのだ。
これだから旅行記はあんまり読めないんだよな。
じっくり最後まで読み切るのは至難である。
そして休日は終わる
あっけなく午後6時を回り、重い腰を上げてスーパーに買い物に行く。
途中から旅行記と料理本、料理動画などを回しながら読んでいた。
最近の僕はつまらない旅人だったと反省したので、明日からはもうちょっと新鮮な気持ちで歩こうと思う。
そうは言っても特に何も変わらないだろうが。
スーパーに行ってじゃがいもを買い、またジャーマンポテトにしようと思ったのだがじゃがいもが高い。
この店はこんなもんだっけ。高いな。
一方ナスが5本ぐらい大きいのが入った大袋が200円。
こっちにするか。
今日は煮浸しだ。
煮浸しはこの夏何度も作った。
こんな風に季節ごとに何度も作る料理ができればさすがにこの先の人生で作り方を忘れることはないだろう。
美味いから何度も作るのであり、これらを『殿堂入り』と名付けよう。
この旅でどのくらい殿堂入りが増えるのか、楽しみだ。
歩いた距離:5km