歩いて日本一周ブログ

歩いて日本一周する記録とか雑記

衰弱して助けられる

僕の回復予想では、今日はほとんど元気になっているはずだった。

しかしこの回復予想が当たった試しがなく、いつも予想より長引くのだ。

今回も例に漏れず、朝からお腹がギュルギュル鳴っており、下痢が続くことを示していた。

 

熱が下がったのにお腹は壊れたまま。

一体何がまずかったのだろうか?

お腹を壊す原因としてまず思いつくのは、熱を出した日の前日の夕食はシチューだったが、そこには開封後10日常温保存(放置とも言う)したウインナーが入っていた。

その前日の時点で味が明らかに酸っぱく変わっていて、やばいかなとは思ったが、残り3個がもったいなくて食べた。

 

しかし熱を出してすぐはお腹の不調は目立たなかった。

それにウインナーで熱まで出るだろうか。

熱が出て弱ったせいでお腹を壊したのではないか。

熱が出てから口にしたもので怪しいのと言えば、水くらいだ。

水そのものではなく、ボトルの飲み口である。

そういえば旅に出てから洗った記憶がない。

飲み口に菌が繁殖していたのではないか。

だとすると飲み口をそのままにしておくのはまずい。

煮沸消毒するのがいいだろう。

 

下着がもうないので、今日はまず服を川で洗って、海岸で干す。

焚き火で湯を沸かし、ボトルを煮沸消毒。

さらに溜まったゴミを燃やす。

 

そう決めてまず洗濯から取りかかったが、体が重くてなかなか動けない。

なんとかテントから出て洗濯を始めるも、数枚でそれ以上続けられなくなり、途中で断念、そのままテントの中に倒れ込んだ。

ここ数日、まともに食べていない。

昨日、一昨日など、水とポカリだけではなかったか。

衰弱しているのだ。

ろくに動けない。

 

下痢をしている間、食べ物を食べるとむしろ良くないと思い、食べないようにしていた。

食欲があまりないこともあったが、食べないほうがいいと思っていたのだ。

 

とにかく、ボトルの飲み口だけは消毒しないといけない。

薪を拾う体力もないので、バーナーを使って鍋を火にかけた。

 

そこで、道路の方から人が海岸に降りてきた。

よく見ると昨日の親切なおじさんで、調子はどうかと大きな声で聞いてくる。

大きな声で返す気力はないので、近くに来るまで待った。

 

「少しは食べれるようになった?」

「いえ、全然ダメです」

 

何か食べた方がいいんじゃないか、欲しいものがあれば、おにぎりでもパンでも持ってくる、医者を呼んだほうがいいか、ここは暑いから上の小屋に上がった方が良い、と気にかけてくれる。

しかし弱っているとき程、人に頼るのが苦手なのだ。

ボトルの消毒だけしたら、小屋に行って涼みますし、大丈夫です、と答えた。

 

しかしさすがにおじさんにも言われたし、このまま何も食べないのは良くないのではないかと、ネットで、下痢への対処を調べてみると、ずっと絶食し続けるのはよくなさそうで、少しでも食べた方が良いようだ。

おじさんが帰ってからボトルを消毒し、最低限の荷物とカロリーメイトだけもって海岸から上がった。

するとそこにさっきのおじさんがいて、余計なお世話かもしれないけど、今看護婦さんやっとった人呼んでるから、と言う。

さらに別の人が来て、今握ってきたと思われるおにぎりをくれた。

おじさんに小屋に通される。

「とりあえず小屋で寝とき、もう来るから」

 

そういえば昨日も、この辺の人みんなあなたのこと心配してる、と言っていた。

あれは本当だったのか。

 

すぐに元看護師だと言うおばさんが来て、熱と血圧を測ってくれた。

どちらも問題なく、これならすぐに医者に行かなくても大丈夫と言う。

もとより医者に行くつもりはなかったけれど、おじさんの方が安心していた。

それからおばさんはスポーツドリンクをくれた。

「これ飲んで、ゆっくりね。あとなんか食べた方が良い。うん、そのおにぎりでも、ほんとはおかゆとかのが良かったけど」

「ああ、そうか。それは気づかんかった」

おじさんが言う。

「おにぎりも、一気に食べんと、ゆっくりね。それと、今からコンビニ行く用あるから、何か買ってくるけど食べたいものある?」

言い淀んでいると、ヨーグルトとかがええか、と言われたのでじゃあそれでお願いします、と言うと、おじさんがヨーグルトなら家にある、と持ってきてくれる。

それとは別にまた何か買ってきてくれるという。

遠慮するなと言われたので、フルーツゼリーを頼んだ。

 

おじさんは言った。

「あの砂浜の上にテント立てるのは良くないよ。暑いけん。砂が物凄い熱もちよるやろ。お遍路さんなんかはようこの小屋の中に立てとるけん、そうすればええよ。ちょっとでも、日陰にな。」

そういえば、初めにここに来て浜辺にテントを立てた時も、犬の散歩に来たおっちゃんに突風が吹くと危ないから上のバス停のとこにしたらどうかと言われた。

この小屋はバス停も兼ねているそうなのでここのことだ。

 

僕がテントを立てる時に一番に気にするのは、そこにテントを立てることで地域住民とトラブルにならないか、ということだ。

できる限り人の迷惑になるのを避け、できる限り目立つのを避け、もちろんキャンプ禁止や宿泊禁止であればやらないし、快適さは二の次三の次になる。

特に住民の生活に支障はなくても、目立つ所や非常識な所に張れば、『邪魔だからやめてください』と言われたり通報されたりするのが普通だ。

しかしここでは、危ないからもっと安全な所でやれと言うのだ。

その安全な所は海岸よりよっぽど目立ち、ちょっと邪魔そうな場所なのだけど、住民の人は気にもしない。

 

しかもこの小屋にはゴミ袋が置いてある。

ここの人が置いて、ボランティアで捨てているのだろう。

そもそも小屋自体ここの人が手作りしたと思われる。

 

ゴミ箱は、道の駅でも撤去される傾向にある。

徳島ではもうほとんどないらしい。

マナーの悪い人が多いからだ。

お遍路さんや旅人だって、マナーの悪い人が多い。

ある道の駅では、遍路小屋として建てられたと思われる休憩所が宿泊禁止になっていた。

泊まらせるとゴミを置いていくからだそうだ。

一晩泊まって、出たゴミを椅子の下にそのまま置いて出ていく。

信じられないことだがそういう人が結構いるから、うるさくゴミ捨て禁止、宿泊禁止となる。

この話を聞いた時はさすがに旅人のマナーの悪さに驚き、宿泊禁止となるのも無理はないと思ってしまった。

迷惑な話だが。

 

けれどここでは、たぶんそうした迷惑を、寛容な心で許している。

ゴミが捨てたいのか、じゃあこの小屋にはゴミ袋を置いておこう。

自分のゴミと一緒に出してあげて、ごみ収集車に持っていってもらおう、と言うのだ。

心が広い。

まるで今目の前に見えている、この太平洋のようだ。

 

おじさんが小屋から出ていってしばらくすると、車でおばさんが戻ってきた。

フルーツゼリー2個、大きめのフルーツヨーグルト、バナナ、飲むヨーグルト、ポカリ、とたくさん買ってきてくれて、保冷バッグに入れてくれる。

「ゴミは全部そこのゴミ袋に入れればいいから。この保冷バッグもゴミでええよ」

 

「氷が溶けたら、ほらさっきのあの人、また来ると思うけん、言ったら持ってきてくれるわ。

あと、今飲んでるスポーツドリンクは昼までに飲みきって。たぶん軽い脱水になっとると思う」

フルーツゼリーを一つ頼んだつもりが、こんなにたくさん買ってきてくれて。

不思議なのは、あのおじさんもこの人も、こうしてあげた、と感謝を待つような、恩着せがましさとまでは言わない普通にある空気が、まったくない。

ただ、困っている僕のためにできることを惜しまずにやってくれて、そこに疑問も後悔も損得勘定も何もない。

困っている人がいたら、こうするのが当たり前という様子だ。

どうしてこんなに優しいのか。

いや、どうしてなんて、どうでもいいか。

 

おばさんが帰ったあと、またおじさんが来て、クーラーボックスを持ってきてくれた。

おばさんが買ってくれたものを冷やすものが要ると考えたのだろう。

手元に保冷バッグとクーラーボックスの両方がそろった。

この人たちは本当に良い人だ。

 

買ってもらったゼリーはとても美味しく、元気が出た。

昼頃に一度トイレに行ったが、下痢は治っていなかった。

 

三時頃におじさんが来て、夕方にそうめんを持ってきてくれると言う、また、シャワーを浴びたくないかと聞かれたので喜んで浴びたいと答えた。

ここ数日、ろくに身体も拭いていなかった。

 

 

四時半頃におじさんの家でシャワーを浴びさせてもらった。

驚いたことに新しく綺麗な家だ。

ここはムカデが入ってくることはないだろう。

シャワーを浴びてさっぱりすると、リビングに通されて少し話した。

歩いて日本一周していることを話すと、自分から見ると、壮大な夢を持った若者に見える、と言われた。

僕自身は、歩いて日本一周することが壮大な夢だと思ったことはなかったので、そんなふうに見えるのかとキョトンとしてしまった。

 

話している間に奥さんがそうめんを茹でてくれて、ここで食べていきなよ、と言われ甘えさせてもらった。

そうめんと卵焼き、どちらも美味しく食べられた。

朝より大分回復している。

 

奥さんは毎朝海岸沿いの道を歩くらしく、一日目、二日目、三日目…あのテントいつまでいるんだろう、と思っていたけれど、まさか体調を崩しているとは思わなかったと言っていた。

奥さんの他にも、話しかけはしないものの僕を気にしてくれている住民の方は多くいたらしく、この集落の世話役であるおじさんに、話していたそうだ。

 

そんなにもたくさんの人が僕のことを気にしていたというのは意外だった。

というのも、人の多い街だと、他人にそんなに注意を払わないから。

意外にもたくさんの人が気にかけてくれたから、僕は助けられた。

逆に、こういう所で悪いことをしようとする人は、意外にもたくさんの人に見られていて、思惑通りにはいかないだろう。

無関心なように見えても、人が少ない集落では、外から来た人にたくさんの目が向けられているということは、覚えておいて損はないだろう。

 

シャワーだけのはずが、食卓でそうめんまでごちそうになった。

ありがたい限りだ。

しかし話しているうちに、旅の次の行き先を聞かれてその話をしたこともあり、なんだかすっかりお見送りムードになってしまった。

あと数日ここにいるつもりなので、ちょっと気まずかったのだが、家から出るときに、お大事に、と言ってもらったのは助かった。

頑張ってね、とかだったら次の日気まずいから。

 

 

歩いた距離:0km