歩いて日本一周ブログ

歩いて日本一周する記録とか雑記

山の国徳島編 中 〜三嶺―剣山〜

三嶺は楽じゃない

高知県最高峰三嶺(みうね)標高1894m。

ホストさんは三嶺をさんれい、剣山はけんざんと呼んでいた。

けんざんはともかく、高知県側ではさんれいは一般的な呼び方らしい。

 

僕の旅で最初の、高山に分類される山である。

登山口の地点で標高は800m程あるので、最終アタックは1000mちょっと登ればいい。

1000mと聞けば中低山の部類だが、標高1000mの山の標高差はさらに低くなることを考えれば、標高差1000mはやはりなかなか高い。

気合を入れて登り始めた。

 

…いきなり道を間違えたので正しい登山道で再出発。

 

三嶺は、楽ではなかった。

登って、登って、登って、登って。

しかしまだつかない。

この登山道自体、ずっと傾斜のある坂道を登り続ける形で、なかなかきつい。

やがて、標高が高くなってくると、コメツツジが現れ始める。

三嶺は、コメツツジという葉が米粒のように小さいツツジで有名らしいのだ。

さすがに米粒は大げさだろう、ツゲよりも小さいことになるじゃないか、と思っていたのだが、実際に見てびっくり。

本当に米粒サイズしかない葉のツツジが現れる。

生憎花は咲いていなかったのだけれど、外観は完全にツツジのものである。

葉だけが異様に小さい。

実に面白かった。

ちなみにそばにミツバツツジもあり、こちらは花が咲いていた。

綺麗だったけれど普通のミツバツツジなら、と写真は撮らなかった。

後から知ったのだが、これもツルギミツバツツジという、剣山近辺に生える珍しいツツジだったらしい。

 

頂上付近、道が険しくなってくる。

昔地理の授業で、中国山地は緩やかで四国山地は険しいと聞いたのを思い出す。

 

情けない話、岩崖のような道や、一歩踏み間違えれば転落するような道を歩くのは怖かった。

これまでも急峻な山や鎖場、もっと危険な場所を登ったことはあった。

しかしその時は荷物が軽かった。

重心は自分のコントロール下にあった。

だから、足一つしか置けないような道もなんなく歩けた。

一瞬重心がずれてもすぐにリカバリーできると分かっていたから、そこまで怖くなかった。

 

しかし、35kgのザックは、少しでも重心がずれるとすぐにバランスを崩す。

バランスを崩せばそのままザックに引き込まれて転落する。

一瞬も重心を自分の中心から逃がしてはならない。

これには神経を使ったし、怖かった。

 

三嶺は、それでも特に高難度の山という訳ではない。

北アルプスなどに比べれば安全な山である。

都道府県の最高峰達成には、少し作戦を考える必要があるだろう。

もちろんアルプスに行く頃には体力も体幹も鍛えられているだろう。

しかしそれを差し引いても槍ヶ岳剣岳はきつい。

一部の急峻な山は、メインのザックを頂上手前のテントに置いて、サブザックでアタックする必要がある。

というか、その辺りの山ではそれが普通なのだが。

 

南アルプス北アルプス程急峻ではない。

縦走できるだろう。

北アルプスの前に南アルプス

後は季節だ。

 

ともかく、楽ではなかった。


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が、三嶺登頂。

曇っていて、ビュービュー吹きすさぶ風が寒い。

しかしとにかくお腹が空いていた。

山頂で食べようと思っていたので食べ始める。

一瞬だけ太陽が顔を出し、暖かかった。

おお、神よ。

 

景色はこんな感じ。


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コメツツジはこんなのだ。


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三嶺は四国で最も美しい山とも言われる。

しかし時期と天気が悪かった。

まあまあである。

 

三嶺を降りて先に進む。

この先に白髪避難小屋という場所があり、小屋で無料で休める。

テント場もあるらしいのでそちらを利用するつもりだった。

 

カヤハゲというピークで、反対側から来た二人組の登山者と会った。

おっちゃん「歩いて日本一周?」

兄ちゃん「すごい」

おっちゃん「ここは通らんでもええと思うけどなぁ」

僕「全都道府県の最高峰踏むんです」

兄ちゃん「あえて困難な道を行くわけだ」

おっちゃん「頑張ってね」

僕「はい」

兄ちゃん「またどこかで会ったら」

おっちゃん「どこで会うんや(笑)」

僕「どこかの山で?」

兄ちゃん「あの時、カヤハゲであった、あの!って?」

おっちゃん「いやいや、覚えとらんやろ」

僕「あはは、どうですかねえ」

 

お互い頑張りましょう、と別れた。

少し元気出た。

 

ここは通らんでもええと思うけどなあ。

おっちゃんの言葉がリフレインする。

確かに。自分で笑ってしまう。

自然を見る旅だから、当然山も見たい。

高い山には貴重な植生、動物もいるから歩きたい。

どうせなら全都道府県の最高峰を登ろう。

そんな動機だ。

 

知らない人からしたら、どうしてわざわざこんな所を…と思うだろう。

しかし、人がしないことをする。

それだけでも意味があると思う。

僕には別に目的があってやっているけれど、人がしないような大変なことをわざわざする、というだけでも意味があるな、と思った。

 

ところで、この山でしばしば聞く鳥の声がある。

パッポー。パッポー。

仕掛け時計で出てくるハトの鳴き声にそっくりだ。

ハトといえば

ホーホー、ホッホー。ホーホー、ホッホー。

という鳴き声しか知らないので、ちょっと感動した。

本当にこの鳴き方をするハトがいるのか!

と。

まあそりゃあいるだろうけど。

というかこの鳴き声が本当にハトのものかは分からないけれど。

 

 

白髪避難小屋

三嶺登頂でほとんど力尽きていた。

仕方ないだろう。

三嶺剣山縦走登山者のザックの重量は、すれ違う人に聞いていると10キロぐらいが普通だ。

ちなみに日本アルプスなどの長期縦走登山者のザック重量は25キロ。

そして僕の日本一周専用ザック(僕の家)は今食糧が多いこともあり35キロである。

しかも登山口までもずっと歩いてきている。

しんどいのだ。

しかしまだ歩かねば。

大丈夫。

ここからは稜線上だからアップダウンはあまりない、と言い聞かせたが、結構登った。

下りて登る。

心は沈む。

白髪避難小屋に着いた時、ほとんどボロボロで、思わず両拳をあげて「よっしゃー!」と叫んだ。

 

避難小屋には誰もいない。

軽く休んで落ち着いたら、お茶を煎れることにした。

ホストさんからもらった美味しいお茶だ。

大歩危の辺りの山の上で採れたお茶らしい。

お湯を沸かして、お茶パックに茶葉を入れて浸しておく。

さらに、ホストさんが持たせてくれた餅をフライパンで焼く。

 

焼いた餅を砂糖醤油で味付けて食べ、お茶を飲んだ。

 

最っ高!

 

餅がとてつもなく美味しい。

できたても美味しくいただいたが、あの時よりはっきりと餅そのものの美味しさが感じられる。

どうしてこんなに美味いのか。

 

ああ、僕はこの先餅を食べるたびに、この瞬間を思い出すのだろう。

疲れた体に染み渡る。

お茶が冷えた体を温める。

 

夢のような時間だった。

昼休憩が終わると、さっさとテントを立てることにした。

小屋も無料だが、他の人も来るかもしれない。

テントは十分快適なのでわざわざ今日だけ小屋にする必要はない。

 

テントを立てると、水場に水を汲みに行った。

水場はテント場から150m程下りた所にあるらしい。

登山道でもない細く急な道を下って行くと、谷から水音が聞こえてくる。

標高は1500m程だろうか。

豊かな水が湧き、小川になっている。

こんなに高い所からこれほどたくさんの水が絶えず出ている。

考えてみれば、驚くべきことである。

周囲の山の標高は1800m程だ。

一体どこからこんな水がやってくるのだろうか。

一昨日の大雨で水量が増えているのは分かるがそれでも2日経っているのに。

山の保水力には驚嘆するばかりである。

 

水をいっぱいに汲み、手ぬぐいを洗ってきた。

テントの中で体を拭き、寝巻き用のジャージに着替える。

ふい〜。

お休みモードである。

 

13:25。

白髪避難小屋周辺に、休んでいる人は僕しかいない。

これは当然のことで、こんなに早く行動を終了して休む奴なんかいない。

僕はこの山で最もダラけた人間である。

 

僕は人よりダラけているとか、人が必死に何かしている時にゆっくり休んでいるとか、そういうことは素晴らしいことだと思う。

それは人より余裕があるということだ。

標高1666mで餅焼いてお茶飲んで昼間からテント立てて、もう終わりっとばかりに休んでいる人間なんていない。

ああ! 素晴らしきかな!

 

山の上で汗びっしょりの服から寝巻き用の楽なジャージに着替えているのも僕だけだろう。

一息ついて森永ミルクキャラメルを口に放り込む。

甘さがジワ〜っと口に広がる。

僕が山の上でこんな贅沢をできるのは、この重いザックを背負ってきたからだ。

人より重い荷物を背負って山の上で贅沢する。

これは良いな。

 

しばらくすると暇になってくる。

僕が持ってきている本は、既読のものしかないが、『変な家』の他、『コンパクト日本地図帳』『海辺を食べる図鑑』『レスキューハンドブック』のみである。

海辺を食べる図鑑では、海辺の海藻や貝、魚の捕まえ方と食べ方が書いてあって面白い。

とりあえずこれをまた読んでいく。

図鑑系の本は何度も読めるからお得だ。

 

この本を読んでいると、仲間と海へ遊びに行きたくなった。

ありがたいことに、僕には海で遊ぶことが好きな友人が3人いて、たびたび彼らと海辺に出向き、釣りをしたり、磯遊びをして、獲った生き物をその場で調理して食べた。

しかし彼らも就職してしまったし、僕は、日本一周しているのでなかなか集まるのは難しい。

まあ、日本一周をしながら良い遊び場所を見つけよう。

みんなでそこに行けば楽しいだろう。

 

夕食はカレーにした。

具が玉ねぎとウインナーしかないのでコクが足りないが、それでも山の上のカレーは美味かった。

 

 

剣山

徳島県最高峰剣山(つるぎさん)標高1955m。

 

朝が寒くて仕方ない。

風にさらされて冷えた結露をまとうフライシートをたたむと指がかじかんで痛い。

手が凍るかと思った。

 

歩き始めると、クマザサの結露を靴とズボンが吸い取り、足元がすぐに中まで濡れる。

丸石避難小屋で休憩。

ここから次郎笈に向けて坂道が続き、その先剣山まで登りだ。

ここで食糧を補給しておく。

 

次郎笈山頂はトラバースで回避して剣山を目指す。

昨日の三嶺がしんどかったこと、三嶺の後のアップダウンもきつかったことから、剣山はかなりしんどいはずだと覚悟していた。

最後の登りの手前で、残していた虎の子、香川でおっちゃんにもらったアリナミンを飲む。

そのおかげか、思いのほか楽に登頂できた。

剣山は三嶺より道が広く、登りやすい。


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よく晴れていて、景色も良かった。


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山頂のヒュッテには、その場で食べられるうどんなどはあったが、買い込める食料はなかった。 

剣山頂上と文字の書かれた四国の形をしたバッジがセンスが良く、かっこよかったので買ってザックにつけた。

この先も山頂バッジを集めていこう。

 

標高1600m地点ぐらいに、リフトがあって、剣山登山口と繋いでいる。

ここまで降りると、剣山野営場という無料の野営地がある。

さっさとテントを立てて、餅を焼いてお茶を飲んだ。

暇があったのでオカリナを吹く。

だいぶ長いこと吹いていた。

オカリナの音は遠くまで響くので、リフト周辺を通った人全員に聞こえていただろう。

テント場は少し隠れた場所にあるので僕の姿は見えず、どこから聞こえているかは分からなかっただろうけれど。

 

散歩で大剣神社に行った。

悪縁を断ち、良縁を結ぶと書いてある。

無骨な見た目が良かった。

さらに歩くと、御神水(おしきみず)と呼ばれる湧き水があった。

岩の間からちょろちょろと湧く水は綺麗で美味しい。

 

テントに戻り、夕食にする。

明日は剣山を降りる。

そこからも長い。

けれど、とりあえずは三嶺、剣山登頂だ。

お疲れ自分。

 

 

歩いた距離:19km