歩いて日本一周ブログ

歩いて日本一周する記録とか雑記

山の国徳島編 上 〜大歩危―名頃〜

お久しぶりです。

剣山から下山し、海岸まで降りてきて余裕ができたのでブログ再開します。

知り合い含む何人かの読者には心配をかけたかもしれません。

僕は無事です。

 

剣山を中心とした徳島の山奥の旅は2つの意味で山あり谷あり。

実に面白いものでした。

その話は『山の国徳島編』と題して三部に分けてお話ししようと思います。

ではまずは、ホストさんの家を出てから、大歩危小歩危を歩き、人間よりも案山子の方が多い奇妙な天空の村に着くまでの話をしましょうか。

 

 

大歩危小歩危

出発の日、ホストさんは作った餅、茶葉とお茶パック、タッパーに入れたふき味噌、2合分のおにぎりを持たせてくれた。

どれもこれも美味しいものばかり。

ありがたい限りだ。

 

さて、まずはこのタイミングで食糧を買わなければならない。

徳島の北部を東西に伸びる吉野川大歩危小歩危の方へ向かって南に折れると、その先はスーパーなどない。

道の駅などはあるものの、安く買うならここだった。

 

米を2kg買い足し、計3.6kgほどに。

さらにそうめん800g、うどんの残りが5玉程あったから、炭水化物はとりあえずこのくらい。

マイタケと乾燥油揚げ。この2つで炊き込みご飯もできるし、両方汎用が効く。

タンパク質に徳用ウインナー500g、350円。

安い。

保存食であるウインナーが常温で保存できないというデマを僕は信じていない。

 

ドラッグストアでカロリーメイト×4を買う。

一つ税抜き170円。ドラッグストアが一番安い。

プロテインバーを3本。

安いのと高いのがある。タンパク質g/円で見ればいい。

ダメ押しでカップヌードルカレーBIGを買っておく。

カップヌードルはカレーが一番美味い。

異論は認める。

とりあえずこんなものか。

 

それからはひたすら歩いた。

大歩危小歩危とは、急流の連続するカヌーコースとして有名で、国際的な大会も行われている。

まず小歩危、さらに歩くと大歩危がある。

歩危とは、歩くに危ないと書く。

元々この辺りには川に沿う道があったらしい。

小歩危峡を見ると分かるが、川の両岸が岩がけになっている。

あそこに道があったとしたら、歩くのは勇気がいるだろう。

 

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青い空と深い緑の山に挟まれた吉野川は美しい。

惜しむらくは、前日の大雨で川の水が濁っていることだ。

空は快晴であったのだけれど。

 

ホストさんの家から歩き始めた頃、ザックが軽くて仕方がなかった。

これは4日間の休息のためで、嬉しく思っていた。

しかし食糧で過去最高に重くなった36か37kgあると思われるザックは徐々に肩と腰を蝕んだ。

この日の目的地である道の駅大歩危に着いたのは、疲弊しきった頃だった。

 

とにかくようやく休めると思ったのだが、『敷地内でキャンプ行為をしないでください』『火器使用厳禁』『トイレで洗濯物を洗わないでください』と禁止事項がずらりと並んでいる。

しかも道の駅は5時で閉まるらしく、もうやっていない。

最悪だった。

道の駅大歩危の大ボケ!

 

過去にマナーの悪い旅人がいてできたルールなのだろう。

しかし道の駅は旅人に開かれたものだろう。もう少し寛容になれないものか。

悪人に対応しようとばかりしている人や店は、大体感じ悪くなるものだ。

ああ、疲れた。もう歩きたくない。

 

少し先に大歩危駅があって、そこで寝た。

児啼爺の言い伝えの地らしく、やけにリアルな像がある。


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夜、少ないがホタルがいた。

星も綺麗だ。

寝よう。疲れた。

 

 

秘境 祖谷の里

大歩危駅から東に歩いて行く。

山はどんどん深くなっていく。

やがて深い山の中に隠れ里のようにひっそりとある家々が見えてきた。

祖谷の里。

日本三大秘境の一つに数えられる、平家の落人伝説が残る地である。

 

香川屋島で源氏との戦に敗れた平家が逃れたのがここ、祖谷の里だった。

来てみれば分かるが、逃げてくるにはもってこいの山奥である。

ちなみに屋島の方も歩いて通っている。

そちらにも伝説は残っており、船隠(舟隠だったかも)という地名があるのだが、これは屋島から見えない場所に平家が船を隠したことに由来するとか。

 

山々を縫うように祖谷川が深い谷を刻み、そこに潜むように民家がある。

こんな所に人が住んでいるのか。

驚嘆してから、でもこんな所に歩いてきている僕も大概だな、と思うと少しおかしかった。

 

道の駅にしいやに着いた。

臨時休業だった。

…なんかそういうの多くないか。

定休日に当たることも多いし、昨日も数十分の差で道の駅が閉まっていたし、運が悪い気がする。

 

祖谷の里では、斜面に家があって、斜面に斜めのまま畑がある。

そこではソバが育てられ、祖谷そばが特産である。

後で詳しく話すが、祖谷のかずら橋という吊り橋が有名なので、かずらそばという名前もある。

いずれにしろ道の駅が閉まっていて、そばは食べられない。

 

まあ、もしやっていても高いから食べないのだけれど。

道の駅がやっていてもスタンプを押して少し休んで、物産店を冷やかして何も買わずに出てきて出発するだけだ。

それでも、道の駅にはやっていてほしいのだ。

やっているといないとでは大違いなのである。

 

祖谷のかずら橋にやってきた。

祖谷の里に入ってからたびたび強調される観光名所だ。

道の駅には歌も残っている。
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この吊り橋は、シラクチカズラというツル植物で編まれている。

祖谷の里に逃れてきた平家は、源氏の追手が攻めてきた時すぐに切り落とせるように、ツルで橋を編んだのだ。

今でも同じ植物で数年に一度編みなおされている。


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写真を撮ってから進む。

しかし橋を渡るには550円かかるのだ。

金取んの? なぜ橋を渡るだけで一食外で食えるだけの金を払わねばならんのだ。

反発心が湧き上がったが、ここまで来て渡らずに素通りするというのももったいない。

その心理を利用しているのだ。

足元見やがって。

迷った末550円払って橋を渡った。

 

前を渡る人たちはみんな左右どちらかの手すりに寄って、両手で掴まってゆっくり一歩一歩歩いていく。

落ちるわけないんだからそんなびくびくしなくても、と甘く見て、僕は手すりも持たずにずんずん歩いていった。

実際足元の木板の間隔は十分に狭く、狙ってやらないと足が抜けることはない。

万一足が抜けても腰で引っかかる。


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しかし、である。

少し進むと、真下を流れる急流の音が轟轟と響いてきた。

自分の足のすぐ下から音が襲ってくるのだ。

足元を見て進むので、目線は自分の足を通り過ぎてその下の激流に落ちていく。

 

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途端、ひやりと冷たいものが背中に走った。

…一応、片手ぐらいは手すりに置いておこう。

揺れは大したことないのだけれど、なかなかスリルのある吊り橋だった。

これは渡ってみないと分からない。

渡らなければ僕は、祖谷のかずら橋なんて大して怖くないよ、作りもしっかりしてるし落ちる心配もない、などと吹聴していただろう。

経験は大事である。

 

かずら橋の後もひたすら歩いた。

ヘトヘトの所、横に車が止まって、出てきたおっちゃんがアクエリアスをくれた。

「脱水すんなよ」

それだけ言って去っていく。

恩に着せる言葉も、世間話も、激励の言葉すらない。

しかしこういうのが、一番かっこいいのである。

ありがとう。元気出たよおっちゃん。

 

この日は、龍宮崖公園という所にキャンプ場があるような気がしていたのでそこを目指した。

しかし実際には、観光案内所とコテージがあるだけでキャンプ場はなかった。

 

観光案内所で少し仮眠を取らせてもらい、その後ちょっと先の車両通行止めの向こうにテントを張った。

 

 

奥祖谷の雨

後一日歩けば三嶺登山口に着く、という所で、僕の脚は限界が近かった。

一日歩くと、次の日は少しパフォーマンスが落ちる。

どのくらい頑張るかにもよるけれど、何日か歩くと、どんどんペースが落ちてきて、同じように懸命に歩いても進まなくなってくる。

そうしたら、一日休んで回復する必要がある。

できれば登山口で休憩したかったけれど、この日はもう歩けそうになかった。

しかも結果的には、1日中雨だったので休むしかなかった。

 

図書館が近くにない。

スマホはバッテリー節約で電源を切っている。

テントの中に一人。

外は雨。

暇。

暇であった。

 

オカリナを吹く。

オカリナは好きだけれど、そう何時間も吹き続けるものでもない。

すぐに終わる。

実は、山の上で読むために文庫本を一冊買っていた。

たまたま大歩危の辺りのコンビニで買ったもので、以前から気になっていた本だ。

変な家、という小説である。

本当は読まずに取っておきたかったけれど、仕方ないので読み始めた。

 

不自然な間取り図から始まるホラーミステリで、さすが売れただけあって面白かった。

しかも読みやすいのだ。

すいすい読めてしまう。

おかげで一冊読んでも大分時間が余った。

 

ラジオでもほしいな、と思う。

携帯ラジオはバッテリー効率も良いし、スマホを使わずに天気予報や音楽、ラジオ番組が聴ける。

しかしせっかく時間があるならもっと創造的なことに使った方が良いのではないか。

絵でも描こうか。

絵を上手く描けるようになりたいという願望は前からあった。

この前文房具屋で、動物の絵を描く指南書があって、良いなと思っていた。

下界に下りたら買ってもいいかもしれない。

 

以前実家に帰ったら小さな写真立てに綺麗な絵が飾ってあって、どこかで買ったのか、なかなか良いセンスだな、と思っていたら妹が描いたものだった。

妹が絵を描けるなんてまったく知らなかったので驚いたものだ。

妹に僕にはない芸術的な才能があると知って少し嬉しかった。

 

旅をしていれば様々な美しい景色や動物に出会う。

そういったものを自分の感性を通した上で表現してみたい。

僕に絵の才能はないと思うが、何事も才能はなくても繰り返し練習することでそこそこできるようになると僕は信じているので、諦める理由にはならない。

 

この日、僕は野帳に小学生が書いたようなイラストをいくつか並べた後、昼間から酒を飲み、趣味の脳内物語創作をして、寝た。

僕が絵を描けるようになる日は遠い。


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かかしの里

朝食は昨晩炊いた白米に、ホストさんにもらったふき味噌をかけて食べる。

このふき味噌が、とても美味いのだ。

フキという山菜はアクが強い。

ふき味噌はフキのアクを上手く抜いた調理法である。

まず、フキを油で炒める。

油炒めで、山菜のアクはよく抜ける。

さらに調味の主体である味噌にも、アクを抜く効果がある。

これだけの処理をしてしまうと、アクの弱い山菜は特有の風味もすべて失って、味のない草になってしまうのだが、フキはえぐみが抜けて風味を色よく残し、素晴らしいご飯のお供となる。

ちなみにふき味噌は、ふきのとうで作るのが鉄板だが、若いフキでも作れるそうだ。

 

この日は山菜を探しながら歩いた。

ホストさんに生えている実物を指さしながら名前と調理法を教えてもらったものは、一発で覚えて見分けられるのだが、図鑑で見ただけではなかなか覚えられない。

セリを見分けられるようになりたい。

そこで、セリっぽい草を片端からザックのサイドポケットに入れ、その他山菜図鑑で見たことがあるような草も入れていく。

重量節約のため、山菜図鑑はスマホに電子で入れてあるが、バッテリー節約のため、図鑑で確認しながら、歩くことはしない。

 

山菜を採取しながらたどり着いたのは、世にも奇妙なカカシの里である。


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至るところに、人間のように案山子がいる。


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なお、全てカカシである。

今のところ出会った人間は登山に来ていた外部の人一人。

さらにはこんなものまで。


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外観だけかと思いきや中に入れる。


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今やカカシのものとなった名頃小学校である。


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中に入ると、この村のパンフレットがあった。

2023年時点で人口25人、かかし300人以上。

かかしの里と人は言う。

三嶺、剣山と高峰連なる山々に抱かれし天空の村。

ここは名頃である。


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あ、どうもこんにちは。


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体育館ではかかしのお祭り。

 

ここのかかしは、すべて一人のかかし作りから始まった。

自作のかかしに、村の人が挨拶しているのを見て面白くなったのが始まりで、以降こんなにたくさんのかかしを作っている。

今ではかかし作り体験もやっているそうだ。

一人一人表情が違っていて面白い。

 

テーブルのノートには、過去に来た人が感想を寄せていた。

ずっと前のものもあれば、つい最近のものもある。

外国語のものも多い。

外国人が日本語で書いたものもあった。

中に、『〇〇、〇〇参上!!』と書いてあるのがあった。

男女の名前なのでカップルだろう。

愉快な寄せ書きだ。

参上!!は良かった。

 

僕も一筆書かせてもらった。

日付をみんな書いていたので2024年5月31日と書いておいた。

もしこれを読んだ人がここに来ることがあれば見てみるといい。

ノートが変わってなければ旅人roadと書かれた寄せ書きがあるはずだ。


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名頃小学校の校歌を気に入ったので貼っておく。

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僕参上。

 

小学校を出てから気づいたのだが、今日は5月31日ではなく6月1日だった。

旅をしていると、日付など忘れてしまう。

 

三嶺登山口に着くと、一休みだ。

休憩できる小屋もあった。

 

採取してきた草は、すべてセリでも他の山菜でもない雑草だった。

ま、こんなもんである。

 

 

歩いた距離:66km